第九話 据え膳食わぬは男の恥(?)
2日程遅れてしまいましたが、どうぞ。
それは突然だった。
私はいつものように朝からお盛んな下半身最低野郎を起こしに行き、マルテのエンジェルスマイルに癒されるながら、カフェラテを貰い、資料を読んでいたとき。
バン!
この執務室では滅多に響かない音が響いた。
マルテも私も驚いた様子でドアを見る。
ここは騎士団管理統制責任者兼第二王子執務室。
そんな大きな音は不敬だと解釈される可能性が高い。だから、基本的には皆ノックして入る。
そう、緊急事態以外では。
「フェリー!、いるか!」
「…ルイ?」
朝から何事だと思いながら、ドアを見つめて0.1秒。ここでは滅多に会わない親友の1人がドアから入って来た。突然の彼の登場に動揺を隠させず、固まる私にどんどん彼は近付き、私の肩に手を置いた。
「やっぱり、居たな。よかった。」
「どうして、ここに?」
「どうしてって、話があるからに決まってる。俺個人じゃからなくて、外交課から騎士団に正式的な依頼だ。」
「!、マルテ。悪いんだけど、今すぐにヴァイゼ様を呼んできて。GK2235って言えばわかるから。」
「わ、わかりました!」
マルテはルイの言葉を聞いてから私の雰囲気に緊張感が走ったのを感じたのだろう。マルテは私の言葉にすぐに頷き、ドアの方に走っていく。マルテが走ったのを見届けてルイの方を見る。GK2235とは、緊急連絡信号の一つである。緊急連絡信号とは、このように内容を伏せて相手に伝えたいときや敵国に聞かれても簡単にはわからないものとなっている。GKは外交課から騎士団という意味。2235は要緊急事態、要請という意味がある。
「理解が早くて助かる」
「で、どうしたの?」
ルイをソファに座らせ、話を促す。
詳しくはヴァイゼ殿下が来てから話すんだけど、と前置きをした上で話を始めた。
「ナラジアの国交に関して、俺たちが今調整しているのは知っているよな。」
「えぇ、騎士団にも話が回ってきていたし。」
「で、だ。どうやらこっちの状況が結構正確に伝わっているみたいだ。」
「…まさか、それって」
私が言葉に詰まると同時に、バンっ!と本日2度目の大きな音が執務室に響く。
「フェリ!何があった!」
ルイと私はドアの方を見る。あれ?さっきも。デジャブ感を感じたが、そこは指して重要ではないではないので深く考えないようにした。私達の視線の先には、案の定ヴァイゼ様が息を切らして来ていた。ルイはヴァイゼ様を捉えると、上から下まで見て顔を赤くした。呼んできて貰ったアルテも走ったというのも有るだろうが、それを考慮しても顔が紅く染まっている。
…まぁ、仕方ない。免疫ないとこうなるか。
私ははぁと軽く溜め息を吐いて、ヴァイゼ様の近くに寄る。元々、ヴァイゼ様は端正な顔立ちだ。身体付きも完璧。保険の為に言っておが、私が見たことがあるのは上半身まで。身体付きが完璧と賛美をしていたのも同期の針子の子だし。まぁ、私もいい身体付きとは思ったけど。急いで来たのだろう、ボタンは第二ボタンまで開いており、そこから鎖骨が見える。え?なんのこれしきで?と思うだろう。だが、この男がそれをやるとフェロモンが漏れまくりなのだ。しかも、キスマーク付き。こんなのが首元に着いてたら、誰だって今まで何が行われていたのかがわかってしまう。ある意味、ダブルパンチでここにいる男達が紅くしてしまったのだ。
「ヴァイゼ様、ここ着いてます。」
「え、何が…くそ、あの女やりやがったな」
私が首元をトントンとやると、最初は何を言われているのかわからないという顔していたが、首元と着いているというのでわかったんだろう。わかった瞬間、実に嫌そうな顔をして呟く。自業自得だと思うが。
「麗しの秘書官に見苦しいものを見せたな」
「いや、別に」
「…今朝はな、ベットの中に潜り込んでいた女がいてな。まぁ、それなりに俺好みだったし、女が態々夜這いして来ているっていうのに喰わないというのは、据え膳食わぬは男の恥って言うだろう。」
「はぁ」
「なんだ、その覇気のない返事は。」
もっとこう、ないのか?ほら、とヴァイゼ様は言うのが何を求められているのかちっともわからない。
「私は、秘書官です。仕事に支障をきたすなら苦言を呈しますが。別にヴァイゼ様が数多の女性と眠れぬ夜を過ごしていたとしても関係ないですし。」
「…婚約者候補の癖に。」
「へ?そうだったのか。」
隣で私達の会話を聞いていたルイが驚いたように呟く。
「婚約者候補者のリストに入っていただけです。私はそのリストの策定する立場であり、自分のことはいの一番に除外させて貰いましたから。」
誤解を生むようなこと言わないでください、と言うとヴァイゼ様は拗ねたような表情をした。子供か、お前は。と思わず暴言が出そうになるが寸前で踏み止まった。その代わりに、軽い咳払いをして間を繋げる。
「とにかく、そんな話は置いて於いて。アルテ、悪いんだけども。私の部屋から化粧落とし、机に置いてある紫の器を持ってきてくれない?」
キスマークを確認する為に、フェリシテはヴァイゼの首元あたりに顔を近づける。その様子に、ヴァイゼ以外の人間はぎょっとした様子で見る。幸いというか、不幸というか彼女は2人に背を向けていた為、その様子を伺うことはできなかった。彼女自身、無自覚にヴァイゼの普段の行いの所為で距離感がバグを起こしているのは気がついていていないのだった。そんな周りの状況に全く気が付いていないフェリシテはほっと息を吐いた。ヴァイゼ様の首元に着いたキスマークは幸いして、口紅に軽くキスしたようなものだった。これが甘噛みとかされていたら落とせなかったから、最悪は避けられて良かった。今から話す内容的に、ルイの気分的にもキスマークをつけている人に話すなんてカオス過ぎる。
「わかりました。」
若干フェリシテの行動に驚きながらも、彼女に声を掛けられた彼はハッとして返事をした。
アルテは私から鍵を受け取ると、またドアの方に走って行った。今さっきから、この男を呼びに行かせたり、化粧落としを取りに行かせたり…今度アルテに何か奢ろうと心の中でひっそりと誓う。
「嫉妬してくれてもいいのに。」
「寝言は寝てから言ってください。」
「本当につれないな。まぁ、そこがいいのだが」
「変態じみた発言はやめて下さい。そういうのはいつもの女性達と勝手にどうぞ。」
「君じゃきゃ、意味がないんだ。」
「…あの、お…私、出直してましょうか。」
いつものように軽いやり取りをしていると、恐る恐ると言った感じでルイが口を開いた。王子という前もあるのだろう、いつもの俺ではなく私にしていた。
「いいのよ、ルイ。口説きはいつものことだから。この方にとっては挨拶みたいなものよ。」
「いつも君に対しては本気だよ。」
「ありがとうございます。」
はは、見事までに棒読みと笑うヴァイゼ様を軽く睨む。そんな私達を見て、ルイは「本当に仲が良いんですね」と少し驚いた様子で呟いた。