第四話 縁は異なもの味なもの
「ま、誠か」
「はい、私としても悪い話ではないですし。それよりも主人であるヴァイゼ様の幸せを願う1人ですから」
「ありがとう」
詭弁はここまでとして。それでは、とすっかり冷めた紅茶を入れ直しつつ今回の婚約話を詰めていく。私がやるのは主に2つ。1つ、この多量の紙束からヴァイゼ様に合う婚約者を見つけること。2つ、策定した婚約者候補たちとヴァイゼ様をお見合いさせること。
ヴァイゼ様の好みは大体把握している。策定は全ての資料を読み込む時間は必要だろうだけど、大丈夫。あの人をお見合いの席に着かせるのも…まぁ骨は折れるけど。やってやれなくはない。こっちはもう1億ベリー貰っているし、その分はしっかりと働かなければ。
「では、私はこれで」
「うん、頼んだ」
「お願いしますね」
両陛下に見送られながら、執務室に戻っていた。残る問題は…もう一度資料に目を戻す。夢ではないかを確認すらために。あった、やっぱりあった。なんで。ここで膝から崩れ落ちなかった私を誰か褒めて欲しい。
な、なんで!私の名前がなっているの!
主人としては怠け者だし女好きだけど、尊敬しているところが無い訳ではない。だが、あの王子が婚約者になるなら話は別である。絶対に阻止。幸いなことに私も策定者の1人。もしかしたら、両陛下がヴァイゼ様がお見合いを嫌がるのを見越して私を入れただけかもしれないし。
「とにかく、私の平穏な未来の為に決めなきゃな」
「何を決めるの?」
「っ!ヴァイゼ様」
紙と睨めっこしていると、背後からヴァイゼ様がひょっこりと顔を出した。思わず右耳を抑えながら、後ろを振り向く。そんな様子にニヤリと彼が笑う。
「へぇ、フェリって耳が弱かったんだな」
真っ赤な顔可愛いよ、なんて言いやがるので思わず頭を叩きそうになった。あ、危ない。此奴…後で覚えてやがれ。絶対にし返す。と心の中で呪詛を呟く。
「あ、で。これ」
ヴァイゼ様が私の目の前に白い箱を差し出した。ん?と思いつつ受け取り中を開ける。
「これは!」
中に入っていたのは、ショートケーキが2個入っていた。しかも、ただのショートケーキではない。最近巷で人気のボンボンショコラのショートケーキである。今度の休日にでも買いに行こうと思ってたのに。
「どうしたんですか?これ」
思わぬ嬉しい収穫に声が上ずる。
「休憩のときにデザートで出て来たんだ。そういえばこういうケーキ、フェリ好きだったよなということを思い出して。ほら、休憩前に何か手土産持って帰るって言ったじゃん。これはいいと思ってな。」
え、何。最高!この王子!生臭王子とか下半身最低野郎とか言ってたし、何なら今さっきまで人身御身なんかに使おうとしてたのに。ごめん。今心から懺悔する。
「大好きです!」
思わず満面な笑みでそう答える。
「!」
「?、どうしたです?ヴァイゼ様?」
「いいや、何でもない」
「そうですか。じゃあ、このケーキは小休憩のときにでも食べましょうか」
「そうだな」
私は箱を持ったまま奥の部屋に進んでいく。目の前のケーキに夢中でこの時全然気がついてなかった。
ヴァイゼ様はそれこそ顔を真っ赤していたなんて。
私はケーキを冷蔵庫に入れた。
第二王子の執務室ってことでここには簡単なキッチンから仮眠室まで揃っている。ここで1日過ごそうと思えば過ごせるくらいの設備の充実振りである。この国はそれなりに発展しており、水道から魔電気と行ったものは一通り設備されている。魔電気とは、自然や私達から流れているエネルギーのようなものだ。例えば今使った冷蔵庫。電源つまりリミッター解除は私の魔力が行っている。ただ、私もこの全土の人々もそうだが、冷蔵庫を1日保たせるようなエネルギーは持っていない。そこで出てくるのが、魔電気。主に太陽の光からだけど。植物などにある微力の魔力を魔道具を使って、圧縮する。それが魔電気。あらかじめ冷蔵庫に物を冷やし、冷たさを保つ魔法陣を打ち込んでおけば、魔電気を流し込めばそれが発動するという仕組みだ。流し込む方法は電源というところで私達の微力な魔力がリミッターを解除し、コンセントというところに繋がると魔電気が流れる仕組みだ。これを作った人は本当に天才だと思う。
「さてと、ヴァイゼ様、何か飲みますか?」
「じゃあ、ハーブティーを」
「わかりました」
紅茶を慣れた手つきで入れていく。
秘書官の仕事は事務的な作業が主ではあるが、専属秘書官になるとこのような侍女や執事的仕事も入っていることがある。なので専属秘書官になることが決まると、必ず紅茶や簡単な軽食の作り方などの講習を受けることが義務付けされているのだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
「こちらがセンカン領土の孤児院経営状況です。あちらが水道破産による緊急支出の申請です。で、こっちが騎士団の緊急要請になってます。15時から財務大臣と騎士団団長の会議が入ってます。課題内容はこちらの資料に纏めているので確認お願いします。」
紅茶を渡す次いでに、机に置いてあった資料の説明を始めていく。
「あぁ、センカン領は状況確認した。維持はこのまま。ただ、もうちょっと孤児院で自立した何か軸みたいものが欲しいって領主には伝えておいて」
「わかりました。伝達郵便使います?」
「緊急性はないから、普通郵便で」
「わかりました。」
郵便は主に3種類にここでは分類されている。普通郵便と伝達郵便、そして緊急通達である。普通郵便は各領土に配置されている郵便局を使い届けるもの。伝達郵便は魔道具を使い、郵便局に届けるもの。普通郵便は郵便局をいくつか辿って届ける。ただ、大きな荷物を届ける場合や緊急性が高くないものに関しては、最小限のコストでできるので最適である。伝達郵便は、目的地に一番近い郵便局に届けられるので仕事書類や締め切りがある物などによく使われる。難点としては、そこまで大きな荷物や重い荷物は届けられないというところ。あと、少し値が張る。緊急伝達は、高位貴族や王族しか持っていない通達手段で、その名の通り緊急性が非常に高い時に使われる。事前に指定しておく必要はあるが、特定場所に直接届き、場所によりけりだが最長でも15分以内には着く。その代わりに、紙一枚くらいしか送れないのと、値段が他の手段とは比べ物にならない位に高い。
本当に緊急用って感じだ。私は、普通郵便で領主に向けて先程の要件を書いて届けた。その後はヴァイゼ様と書類仕事を捌き、会議にも参加してなどをしていて婚約話以外はいつも通りの1日を過ごした。