春。買い物。
三題噺もどき―よんひゃくさんじゅうさん。
視界が淡く染まる。
強い風に吹かれ、桜の花びらが散っている。
ようやく見ごろを迎えた矢先に、はらはらと散っていく。
儚くも美しい―なんてことは思わないが、少々惜しいなぁとは思ってしまう。
「……」
今週末に妹家族と花見に行く予定なのだが……それまで花びらがついているかどうか。
まぁ、花より団子である以上たいして関係はないかもしれないが。
天気さえ持ちこたえてくれれば、あとは自分の気力。
「……」
桜の並ぶ道を、歩いていく。
今日から学校なのだろうと思っていたけど、小学生らしき子供たちと時折すれ違う。
四月も始まり、各々が新しい生活へと胸を弾ませている事だろう、彼らもきっと。
あれぐらいの頃の記憶なんて、ほぼないに等しいので覚えていないが。
「……」
あぁ、もしや今日は入学式がメインなのだろうか。
その辺全く分からないんだが……。
始業式が終わって、午前中で帰って、遊んでいると言う感じなのかもしれない。
自宅待機はしなくていいのか……。
「……」
いいなぁ、何もかもがきっと楽しいんだろう。
小学一年生。
まだ少し使い慣れていない、えんぴつを握って、自分の名前を書いてみたり。
初めての人間にたくさんあって、話してみたり。
友達になってみたり。
「……」
そういえば、この間甥っ子が鉛筆で文字を書く練習を見せてくれた。
手紙を都度送ってくれているから、その練習の成果はしっかりと出ている。
褒めたら褒めただけよろこんでくれるのも、今だけなんだろうか。
「……」
彼ももう少ししたら、小学校に通う様になるのだろう。
そうなったら、今みたいに会うことも、話す事も少なくなるのかもしれない。
親ではない以上、大した関わりは持てまいよ。
それでも、彼が迷ったときに何かは出来るかもしれないなんて、今だけは思っていたい。
そのためにも、早く仕事に復帰しなくてはいけない……けどまぁ、そこは急いでもしょうがないとさんざん言われているので。
あまり自分にプレッシャーはかけない。
「……」
また小学生が横を通り過ぎていく。
おっと、私もこんな所でぼうっとしている暇はない。
いや、時間はあるんだけど、今日は買い物に行こうと思っていたのだ。
今は物思いにふけるタイミングじゃなかった。
「……」
歩行を再開し、目的地へと急ぐ。
そのあいだも、桜は散り落ち、地面に絨毯を作り上げていく。
なかなかに壮観ではあるが、歩く側としては少々気まずい。
あんまり、花びらとか踏みたくないよな。
「……」
目的地はもう視界の中には入っている。
それだけをなんとなく見たまま、足元の死体には意識をやらないようにする。
ぶわりと強く吹く風が、髪の毛を乱していく。
「……」
目が乾燥してきた……今日はコンタクトをしてきたので、乾燥が酷い。
買い物をする前に目薬でもさしてからいこう。
とりあえず……
ぶぅぅん―
低いモーター音とともに、ドアが開く。
無意識に足早で歩いたのか、あっという間についた。
「……」
とりあえず、手洗い場に行き、目薬だけさしておく。
ついでに手も洗って。これはなんとなく。
「……」
今日の目的地は、天下の百均だ。
鋏が壊れたのでその購入と、ついでに筆記類を何個か。
調味料も何かあったら買いたいところだ。
と、買うものを整理し、買い物を籠を取りながら店内へと入っていく
「……」
おぉ……もうこんなものが売ってるのか。
入ってすぐに目に入ったのは、水鉄砲やビーチサンダル、扇子なんかの夏小物。
いや、扇子は年がら年中ある気がする……新しい模様とかそのあたりだろう。
「……」
買うつもりはないが、物珍しさに眺めてみる。
春がやっと来たと言うのに、もう夏の準備とは……。
まぁ、でも確かに春の陽気というには少々暑い。
「……」
この扇子…好みかもしれない……買うか?
そういうのはあまり使うタイプではないが……。
今年はどうなるか分からないし……買っておいてもいいかもしれない。
「……」
目に付いた扇子を手に取り、目的のものを探しに行く。
ついでに、店内をぐるりと回ることにした。
こうして、買う予定の無かったものでいっぱいになるんだろうな。
お題:扇子・鋏・えんぴつ