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Aspire[執行人]  作者: 日下部素
第1部.始まりのサイセイ
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8.ひと時の休まり

夜は更けて、部屋に取り付けられたアナログ時計の針が十二時を過ぎていた。


奏多とタハリエルは案内された仮眠室で横たわっていた。


六畳ほどの部屋にシングルベットが両方の壁側に離されて備え付けられている。


「天使、もう寝た?」


蛍光灯はつけたものの、両者ともに傷を負い、疲れを隠せないでいた。


「まだです」


「別室でもよかったんじゃない。」


「この件に巻き込んだのは私のせいでもあるんです。他の部屋で休んで奏多さんが殺されましたでは天界に帰れません」


「怖いこと言うなよ…」


「大丈夫です。あちらでも面倒はみます」


「それだと僕もそっちに連れてかれてるじゃん。君、助けに来てくれたんだよね?」


やや声を張り、目を細めて述べた奏多。


「……ごめんなさい」


「何が?」


「奏多さんは普通の生活を送っていたのに巻き込んでしまいました。私の能力では大天使クラスには逃げまどい、抗うことで精一杯です。どうにか奏多さんのもとにたどり着いて……」


「いいさ。僕の能力も普通じゃないってことはよくわかってたし。あいつらから助けてもらえたしね」


「……もちろん守護天使であるので奏多さんの安全を第一に守ることが優先されたのですが……それでもなぜこの時期なのか、まだ大天使方の意思を計りかねます」


奏多が体を起こし、ベットに腰かけ、宙を仰ぐ。


「まだ、全然わからないことが……あ……大学の講義どうしよう。さすがにここから出れないよな……。そういえば大天使から守ってくれた女の人がなんとかって言ってなかったか?」


「女神・ミネルヴァ様ですね。あんな方にはなかなかお会いできないのですが。それに今日助けて貰いました。ここでは学問や商業の神とされています」


タハリエルも体を起こし、奏多の方に座りなおす。


「あそこで助けてくれなかったらヤバかった。奴ら……大天使達がここまで追いかけてきたということはミネルヴァは蹴散らすことが出来なかったってことだよな?」


「そうですね……ですが天界にもルールがあります。上位に対して力を使えば堕天使になりかねません。逆に必要以上に力を行使すれば部下に手を出したとみなされ、どこから何が飛んでくるかわかりません」


「わからないことがたくさんあるな」


タハリエルの不明瞭な答えにやや困った様子の奏多。


「わかる範囲でしたらお応えします」


「そもそもここはどういうところなんだ」


「特殊法人三境会、監督省庁は……いくつかありますが表向きは宗教や信仰などのあり方を見守る組織です」


「表向きは?」


「実際は天界、人間界、獄界を御する三界の均等を保つための組織です。各階層のルールを一つにして、人間界での活動に制約をかけ、従わない場合は天使、人間、悪魔も関係なく強制力で従わせる。三界の警察みたいなところでしょうか」


「うーん……強制力がピンとこない」


「いろいろな解釈ができますが、強制力というのは武器といえばいいのか、法律といえばいいのか……ある種、自分たち自身に設けた呪縛のようなものです。昔話になりますが各階層で人間界での活動に制約をもうけ、ルール作りをしました。各階層は三境会に均衡、中立、平和の役割を担わせ、従わない場合は総務課長……齋藤さんのように行政のかわりに代執行する」


「うーん……そもそもわざわざ人間界で活動するのはなんで?」


「率直に申し上げると都合がいいからです。誰をどちらのどの階層に送るか。毎日のように決めています。そこには三境会の意見も取り入れられます。それは悪霊や事故で無くなった一般市民、大悪党など様々です。各階層の存在が諮られます」


未だに納得がいかない、というよりか理解が追い付いていない奏多は頭に思い浮かぶ、疑問をタハリエルに尋ねる。


「僕はいままで、彼らのような、あからさまな異形と出くわさなかった。意思疎通が取れる彼らが表立って出てこなかった……僕が今までたまたま出くわさなかっただけかもしれないけど」


「宗教や信仰には自由があります。信じるのも信じないのも自由。我々が言うのも変ですが我々の存在は超自然的です。やすやすと出てきていい者ではないかと考えます。あまり表立って活動すべきものではないかと……」


考えることが多すぎて聞き足りない様子の奏多。


「話が戻るけど僕に強制力が効かなかったよね」


タハリエルはハッとして、やや俯きカーペット地の床を見つめる。


「率直にいうと何者でもないからです」


奏多はその言葉に顔を曇らせる。


「いや人間だけど」


「我々と同じ依代があって現界していると考えます」


「天使や悪魔なの?」


タハリエルは言葉を選んでいる様子で幾分か間を開け、ぽつりぽつりと話し始めた。


「…ある考えに帰結しますが……これまでの事から、奏多さんは『煉獄の住人』と呼ばれている存在ではないかと考えられます」


「煉獄?」


「現代では死後の間と天国に挟まれた階層をいいますが有史以来、その存在は確認されていません」


「でも僕は存在する」


「……はい」と言葉を発する天使は逡巡していた。


「今までは可能性の話でした。ですので、どの階層の方々も静観の姿勢でしたが、先の騒ぎで奏多さんが煉獄の住人であることは間違いないと考えられます。天界の、それもトップクラスの地位と力を持った大天使様が直接、奏多さんを誘拐しようとしてきました。これからは血眼であなたを三界の者が自身の陣営に取り込みたいと考えていくでしょう。なりふり構わずに。それほどに奏多さんは伝説より伝説の存在です」


タハリエルは真剣にこちらに眼差しを向ける。


「総務課長さんもおっしゃっていましたが奏多さんが特異な存在であることは変わりありません。人間から生まれた人間が強制力を受け付けない。そしてあなたはあの炎、『灯火』を使える。代償はありますが半永久的に。繰り返すようですがこのような人物や異形の存在は今までに確認されていません」


数舜の沈黙が広がる。


「これは私の意見も交じりますが……私の派閥での考えでは三境会に属した方がいいと考えられています」


「派閥?」


「簡単に言うとタカ派かハト派か真ん中かです。タカがあなたをどうにか天界に回収する派閥。真ん中はノータッチ、ハト派は静観して見届ける派閥です。私はちなみにハトです」


奏多は先に出くわした妙に口調が丁寧な金髪といけ好かない黒髪の大天使を思い浮かべる。


「奴らはタカか」


「ご賢察、その通りです」


「真ん中はほぼハト派です。ミネルヴァ様はここの考えに近いと考えます」


「ですが今回助けていただきました。ですが本心はよくわかりません、私の派閥とそこまで近しい存在であるとは認識していませんでした。」


「神様とやらがいるのに考えはまとまらないんだな。天界っていうのは」


「痛恨の一撃です。神と謁見できるのはより高次の存在です。ですが最近神の不在が囁かれています」


「神の不在?」


「はい。ここ800年、神と謁見できていないらしいです」


「ミネルヴァは神じゃないのか?」


「ここでいう神は最高位の存在です。全ての運命を決める存在です。ちなみにミネルヴァ様も神様ですが位が違います」


淡々と話していたタハリエルは顔に影を落とす。


「三境会も神の不在は知っていると思います。天界の状況もある程度、把握しているかと……」

どこか憂いていたタハリエルの顔を見た奏多。


「……なんか話し込んじゃったな。そろそろねるか」


「そうですね……おやすみなさい」


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