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サンシキスミレ  作者: 糸東 甚九郎(しとう じんくろう)
8/8

花は揺れ、そして笑う

 目の前で揺れるビオラとパンジー。その花を見ているうちに、僕は、小さい頃から身近にいた小晴ちゃんとの思い出を振り返っていた。


 保育園の頃、近所の公園で転んで泣いた僕に「げんきだして」と言ってたな。


 小学二年生の夏、初めて町の相撲クラブに入門した時、「つよくなってね」と言われたな。


 小学五年の海浜学習の時、海パンを忘れて海遊びできない僕に「元気だしなね」と言ってたな。


 中学一年の秋、期末テストで九教科八十点で凹んでた時、「なんとかなるよ」と励まされたな。


 中学三年の修学旅行、奈良の寺で鹿に噛まれた僕に「いいことあるから」と言ってくれたっけ。


 高校一年の登校初日、寝ぼけて中学校に行ってしまい、「さすがにそれはないね」と笑われたな。


 そして、いろんな女の子に告ってその都度フラれた時に、いつも小晴ちゃんは微笑んで「元気だしなね」と、横で慰めてくれていた。呆れたような、微妙な表情は何度もしていたが。


 思い出すと、いつも、小晴ちゃんは側で支えていてくれたのだ。

 僕が鈍すぎて気付いていなかっただけで、小晴ちゃんはずっと、僕を大切に思って接していてくれたのだろう。そうでなかったらきっと、相手にされるはずもない。いくら幼馴染みだからって。


「・・・・・・ん?」


 その時、後ろから足音がした。花の前でしゃがみ込んでいた僕は、立ち上がり、振り向いた。

 そこには、茜色の夕陽に背にした小晴ちゃんが、淡いシルエットのようになって、立っていた。


「きんちゃん、どうだった? 探していた本は、見つかった?」

「・・・・・・ああ、見つかったよ。・・・・・・す、すまん小晴ちゃん。あ、あのさぁ・・・・・・ええと・・・・・・」


 すると、しどろもどろになった僕の前で、小晴ちゃんは花咲くように「よかったぁ」と笑った。そして、表情をそのままに、玄関脇にある二つの花を指差した。


「見て、きんちゃん。・・・・・・これ、わたしときんちゃんみたいだね? パンジー、大きすぎだし」

「大きすぎ・・・・・・って、これ、もともと小晴ちゃんが育ててたんじゃなかったんかい?」

「え? あ、そっか・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・ぷっ」

「ふっ・・・・・・ふははっ!」


 数秒後、僕と小晴ちゃんは、吹き出すように笑った。夕空には、白い星が一つ、瞬いている。

 僕は、花を知って、一番身近な人の心も知った。もっと早く、気付いていればよかった。


 いつからだったのだろう。小晴ちゃんが僕を想っていてくれたのは。

 もしかしたら、それは花だけが知っていることなのかもしれない。

 風に揺れ、可憐に咲いてる、三色スミレたちだけが・・・・・・。









  サンシキスミレ

    終わり






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― 新着の感想 ―
[良い点] 羨ましいな、田丸きん平!!! こんな青春。。。アリだぜ!!! [一言] 春日井小晴、ちょっとツボった♡
[一言] 終筆おめでとうございます! なんだか年甲斐もなくほっこりしてしまいました(笑) アクションからラブストーリーまで、幅広い小説家を目指して頑張ってください! 次作も楽しみにしています。
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