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サンシキスミレ  作者: 糸東 甚九郎(しとう じんくろう)
7/8

走れタマル

 図書室になかったお目当ての本を、本屋でやっと発見した。『誕生日、三百六十五日の花言葉』という本だ。

 レース編みのような絵柄が描かれ、白とピンクのチェック柄でデザインされた表紙。もう、いかにも「女性向けですよ!」的な感じ。

 その本があるコーナーにいる客は、女の子や女性ばかり。

 どう見ても僕は、浮いている。本来僕は、武道や格闘技雑誌コーナーにいる客相だろうな。

 僕は、あたかも誰かに頼まれたかのような感じで突撃し、本を手に取った。「これだ、頼まれたやつは」と言いながら。

 紫色の学校ジャージ姿の巨漢が華やかな本を手にし、コソコソと立ち読みしている。何か、妙に周囲から視線を感じる気がする。別に変なことはしていないのだが。


 本をペラペラ捲り、まず僕と小晴ちゃんの誕生日ページを見てみた。ああ、照れくさい。

 二月二日と、十一月十一日のページ。そこには、こう書かれている。


 ☆ 二月二日の誕生花 【パンジー】

    [花言葉] 私を想って  

     (白)  温順

     (黄)  つつましい幸せ  田舎の喜び

     (紫)  思慮深い人

          

 ☆ 十一月十一日の誕生花 【ビオラ】

    [花言葉] 私を想って  

     (白)  温順

     (黄)  つつましい幸せ  田舎の喜び

     (桃色) 少女の恋  信頼しています  私を想って


「・・・・・・。・・・・・・パンジーもビオラも、ほぼ同じだなぁ・・・・・・。・・・・・・ん? ・・・・・・まてよ!」


 僕は、はっとした。その場で瞬きを何回かした。小晴ちゃんの言葉が、頭をよぎった。



 ――― きんちゃんには、ピンクのビオラと黄色のパンジーを、大切にしてほしくてさ ―――


「ピンクのビオラと・・・・・・黄色のパンジーって、もしかして、そういうことっ? うそぉ!」


 僕は慌てて本を閉じ、それを棚に戻した。周りの客は、本を閉じた音に驚いた感じだ。

 急いで本屋を出て、音を立てながら走った。道行く人々を撥ね飛ばし、僕は重戦車のように、家まで走った。人目も気にせず、いつもの倍近い力で、走った。田丸きん平は、ひたすら、走った。


「何をやってたんだ僕は。・・・・・・気付かなかった。そういうことかい!」


 息を切らせ、太った男子が走ってゆく。道に転がった空き缶が揺れる。小石は塀に弾け飛ぶ。

 他人から見たら、ただのトレーニングか、お腹が空いて早く帰りたいのか、そのどちらかだと思われることだろう。どう見てくれてもいい。僕は走ったのだ。どすどす、どかどか、走ったのだ。


 家に着くと、全力で走ったせいで、膝が痛くなっていた。僕は玄関脇の花をじっと見つめて、さっき読んだ本の内容を思い返し、手を伸ばした。

 二つの花は、汗だくの僕へ笑いかけているかのように、緩やかな風を受けて揺れている。


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