夫婦の日
明日は節分。その前日、二月二日は「夫婦の日」だそうだ。いや、違うだろ。僕の誕生日だよ。
ちなみに十一月二十二日は「いい夫婦の日」だって。朝、テレビで女子アナがそう言っていた。
今月から三年生は特別日課となり、月末の卒業式予行までほぼ休みになった。進路が決まってない人は大変だけど、僕はもう地元の青果店に内定している。ほとんど学校に行かなくていいのだ。
小晴ちゃんは、千葉の大学に内定が決まったようだ。猛勉強して、難関である国立大学の園芸学科に受かったそうだ。
こんな群馬の山間から千葉に出るんじゃ、距離も遠いし、独り暮らしだろうな。いろいろと大変なことも多いだろうな。一人娘だから、親父さんが寂しがりそうだ。
そして今日もまた、小晴ちゃんはあの花壇のところで花を愛でている。
僕もあの花は覚えたよ、ビオラだ。以前もらったやつはパンジーで、植わってるのはビオラ。違いは花の大きさだったな。
「あれ、きんちゃん。今日は学校に用事?」
「え。あ、ああ、そうだね。ちょっと、図書室に・・・・・・」
「珍しいね、きんちゃんが図書室に行くのは。お相撲の本でも探しに?」
「うーん、違うな」
「じゃあ、おにぎりとか、ハンバーグの本? それとも、ちゃんこ鍋とか? あ、肉まんかぁ!」
「あのなぁ小晴ちゃん。僕のお腹を見て、適当に言うのはやめてくれ。わかってるんだろぉ?」
「あはは。ごめんごめんー。・・・・・・見つかるといいね、きんちゃんが探してる本。あるかなぁ?」
「そうだね。無かったら、本屋に行ってみる」
「わかったー。・・・・・・あ、きんちゃん。探し終わったら、帰りにまた、ここ寄って?」
「え、いいけど。なんだい? ま、いいか。じゃあ、帰りに寄るわ」
それから僕は二階にある図書室でお目当ての本を探したが、見つからなかった。
仕方ないので諦めて、本屋に行ってみることにした。『誕生日ケーキ作りの本』は棚にあったのだが。
図書室に入ってから出てくるまで一時間くらい経っていたが、正門の所へ戻ってきた時、小晴ちゃんはゴム手袋をして、学校ジャージ姿でまだ花壇をいじっていた。
本当に、花が好きなんだな。