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サンシキスミレ  作者: 糸東 甚九郎(しとう じんくろう)
4/8

三円しかなくて

 平成も十三年になった。西暦だと二〇〇一年。今日から二十一世紀。なんだか未来っぽい。

 そういえば僕の友達がかつて、オカルト本にハマっていて、「一九九九年に恐怖の大王が降臨して、火星に支配されて世界が滅ぶ」なんて話を信じてたけど、何にも無かった。


 今朝は早くから郵便バイクの音がする。うちにも相撲部のメンツや中学時代の友達、あとは近所のこんにゃく屋に住む同級生から年賀状が来た。みんな、(ふで)忠実(まめ)なんだなぁ。 


「きーんちゃーん。いるー? あけまして、おめでとー」


 僕は呼ばれて部屋の窓を開けた。

 下にいたのは、小晴ちゃんだった。

 元日だからか、きれいな三色生地の着物を着ている。僕は三色というと錦鯉が頭に浮かぶ。あとは三色団子とかかな。


「ねー。ちょっと学校寄ってから、初詣いかない?」

「え? 正月なのに、学校寄るのかい?」

「お花が霜でやられてないか、ちょっと見たいんだー」


 本当に、小晴ちゃんは花が好き。でも、元日から着物姿で花壇を見に行くなんて、面倒見が良いというか、何というか。

 万が一、土で着物が汚れたりしたら、どうするんだろう。


 学校までは、歩いて五分。なにげに、通っていた小学校や中学校の方が遠いのだ。

 小柄な小晴ちゃんと大柄な僕が歩くと、きっと遠近感が狂って見えるかもしれないな。


「よかったぁ。みんな、元気に咲いてる。霜にも、やられてない」

「良かったね。小晴ちゃんは、それほどまでにこの花が、好きなんだ?」

「うん。だって・・・・・・わたしの、誕生花だから」

「誕生花? なんだそりゃ?」

「知らない?」

「知んないなぁ」

「毎日、何月何日はこの花っていうのが、決まってるんだぁ。・・・・・・花言葉付きでねっ」

「花言葉ぁ? なに、それ?」

「もぉー。きんちゃん、そういうのって興味持ったことないんだねー」

「無いよ。だって、僕みたいなやつが、お花なんて・・・・・・。ま、まぁ、嫌いではないけどさ」


 小晴ちゃんは「ふーん」と言って、横でニヤニヤしている。なんでだろう。

 とりあえず、地元で一番人気の神社は混むから、昔よく遊んだ公園の脇にある小さな神社の方へ行くことにした。超マイナーな場所だから、そこなら混み合うこともなく初詣になるだろう。


「きんちゃん。花言葉とか誕生花の本、買ってきてあげようか? 知りたそうな顔してるし」

「ええ? い、いいよ、別に。・・・・・・それよりも、相撲がうまくなる本の方がいいよ」

「顔に出てるよ、きんちゃん。あはは。照れなくていいから。・・・・・・あとで、教えてあげるね」

「い、いいってば。勝手に図書館か本屋で立ち読みでもしてくるよ」

「そっか。一応、興味出てきた?」

「小晴ちゃんが、意味ありげな言い方をすっからさぁ。ま、まぁ、知っておくくらいなら」

「誕生花も、花言葉も、知ってると面白いよ。うん。いい知識になると思うなぁ」


 誕生花だの、花言葉だの、今まで関わることがなかったジャンルの言葉だ。

 花には興味が無かったから、変なもんだ。いったい、どういうものなのか。女子が好きな、占い的なやつなのかな。


 初詣では、「今年こそ、超美人で最上級の彼女が出来ますように」と、神様にお願いしてきた。

 お賽銭、三円じゃちょっと足りなかったかな。

 財布に小銭がそれしかなかったんだよね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼのとしていて、いいですね、この作品。 きんちゃんは、どこか、過去作の「タマオ」に似ている気がします。彼よりはもっと、のほほんとした感じがしますが。
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