小春日和
十一月十一日。僕は、今年のこの日が何なのか、ちゃんと覚えている。小晴ちゃんが十八歳になる日なのだ。
昔から、お互いの誕生日は「おめでとう」と言ってきたから、よく覚えているのだ。
「小晴ちゃん、おめでとうな」
「ありがとう、きんちゃん。・・・・・・あれっ? それ、なぁに?」
「数年前、世間で大流行した携帯ゲームだよ。小晴ちゃんなら、育てられるかと思ってね」
「えー。まさかあの、『ぽてこっち』なの! しかも、白だぁ! 白って、レア色なんだよぉ!」
「ま、誕生日だかんな。このくらいは・・・・・・」
「あれ? え? ・・・・・・あの、きんちゃん? これ、ぽてこっちじゃない・・・・・・かも」
「え! なんだと! どういうこっちゃ?」
「よく見たら、これ、ただのキーホルダーだよ? ほら、見た目そっくりだけど」
なんということだ。昨日、夕方から二時間もかけてクレーンゲームで取ったやつなのに。
一万円も小遣いをつぎ込んだのに、ただのキーホルダーだったなんて。やられたな。
「す、すまん小晴ちゃん。やっちまったなぁ、僕」
「あはは。大丈夫だよぉ。嬉しいから。・・・・・・ありがと、きんちゃん。大切にする」
「そ、そう言っていただけると、ミスったけど、あげた甲斐はある・・・・・・かな」
「こんな優しいのに、なーんできんちゃんは、フラれちゃうんだろうねぇ?」
「し、知らんわい。・・・・・・そういや小晴ちゃんは、何で十一月生まれなのに『こはる』なの?」
「え? わたしの生まれた日が小春日和で、清々しいほどの快晴だったからだって」
「ええ? どういうこっちゃ。なんで十一月生まれなのに小春日和になるんだい?」
すると、小晴ちゃんは「え?」と首を傾げた。僕は「だって春の天気なんだろ?」と返した。
「きんちゃんー・・・・・・違うよぉー。小春日和は、秋から冬頃の晴天のことを言うんだよ?」
「そっ、そうなんかい! し、知らんかったわい、それは。すまん、小晴ちゃん」
「いいのいいの。きんちゃん、次は間違えちゃだめだよ? 勘違いしやすい言葉だよね、確かに」
僕は本当に、小春日和ってのは春の陽気だと思っていた。秋から冬なんて、反則じゃないか。
他の大事な場で知ったかぶって言ってたら、恥をかくところだった。知らない人は、ご注意を。
それにしても、ぽてこっちのニセ物を堂々と入れておくクレーンゲームって、ひどいんじゃないか。「大流行した『あれ』がもらえるかも!」って、大きく書いてあったのに。