元気だしなね
学校の正門横には小さな花壇がある。いつもは用務員さんが管理している場所だ。
いつも、そこにしゃがんで花を愛でてる女子がいる。幼馴染みの春日井小晴。
僕と彼女は保育園からずっと同じクラス。小学校、中学校、そしてこの高校でも、十二年間ずっと同じクラス。
クラスが一つしかないわけじゃないのだが。何気にすごい確率かもしれない。
「おつかれ、きんちゃん。もう帰るの? ・・・・・・。ねぇ・・・・・・また、フラれちゃったんだって?」
「・・・・・・まぁね」
「いいところ、いっぱいあるのにね、きんちゃんは。・・・・・・元気だしなね?」
「僕にそう言ってくれるのは、小晴ちゃんしかいないよ」
「そうなの? そんなことないと思うけどなぁ」
小晴ちゃんは園芸部の部長だった。
部活を引退した後でも、こうしてボランティアで学校の花壇に咲く花の面倒を見ている。小さい頃から花が好きな子なんだ。
同じ農業科だけど、僕と違って勉強はできる。普通科のトップレベルと比べても遜色なく、偏差値は七十近いほど。すごいよね。
「小晴ちゃんも、好きだねぇ。園芸部引退しても、ずっと毎日花壇をいじってるもんな」
「うん、好き。きんちゃんも園芸部に入ってくれればよかったのになー。お花に詳しくなるよ」
「僕は、花の種類なんてよくわからんのだ。カリフラワーなら、食べられるから知ってるけどさ」
「だめだよぉ、食べるなんて。ここに咲いてる花は、観賞用だからねっ?」
「冗談だよ、冗談。花を食べても、お腹いっぱいにならなそうだし」
小晴ちゃんは僕に「きんちゃんにもこれあげる」と、花の入ったポッドを差し出した。
「なんだい、これ? そこに植わって咲いてる花と、同じだな」
「同じじゃないよ。植えてあるのはビオラで、それはパンジー。きんちゃんには黄色を選んだよ」
「見た目、変わらないけどな? 同じにしか、見えんー」
「変わるよぉ。花の大きさが、だいたい五センチ以上なら、パンジーなの」
「じゃあ、四.九九九九センチの花は、パンジーってやつにならない?」
「え? うーん。まぁ、『だいたい』だから、それはパンジーでもいいかなー」
「いいのか、そんなんで? あと僕、花の育て方知らないし、枯らしちゃうぞ、きっと」
「大丈夫。わたしが教えてあげるから」
小晴ちゃんは優しい。
派手さもなく、極めて美人って程でもないと思うが、標準的に整ったきれいな顔で、のんびりした自然な感じの女の子。田舎によくいる可愛さを持つ感じの子、かな。
僕が何かで失敗すると、いつも小晴ちゃんは「元気だしなね」と慰めてくれる。
試合で負けて泥だらけの時も、赤点とって追試の時も、女子に告ってフラれた時も、いつも「元気だしなね」って言ってくれる。幼馴染みってやつは、気を遣わなくて良いから、なんかいい。
花壇のビオラが、僕と小晴ちゃんを見上げてる気がする。
なんだかこの花、模様が顔みたいだ。
笑ってるような、睨んでるような、不思議な花だな。