scene 37
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夜闇に浮かぶ美しい蜜色の月は、完全な円形よりやや欠けている。歪んだ円形の様な形をした月は金色の煌々と光る部分と、クレーターを形成している影の部分とがはっきりと分かれていた。空に光を放ちながら浮かぶ月は、満月のときほどではないにせよそれに近いほど明るい月光を、闇に覆われてた砂上へと落としている。月の光は、瓦礫と化した砂漠の街をくっきりと浮かび上がらせる。
「フフフッ。ずいぶん派手に壊してくれたじゃない?」
「そうですね。まぁ、いかにも彼女らしいですが。大聖堂を壊していないというのもまた、彼女らしいですね」
「すでに壊された街に関心や興味など不必要だ。とにかく、今はあいつの手がかりを探すんだ、ファイヴ、ナイン」
「……おなか、すいた」
荒れ果てた街の残骸の中。そこに、四つの影があった。四つの影は全員、薄汚れた白いローブをフードをかぶって纏い、砂よけの布を口元に巻きつけている。
「はい、はい。もうー、いっつもマジメさんなんだからー。セヴンはー」
「ファイヴ。その語尾を伸ばす口調は止めろ。ベタベタして気持ち悪い。ついでに、無駄に多い言葉数も減らせ」
ファイブ、と呼ばれた二十代前半に見える女性は、毛先が緩く巻かれた長い栗毛を揺らしながら、セヴンと呼んだ男性を振り返る。その拍子に、首からかけている色とりどりの宝石で飾られたペンダントがファイヴの豊かな胸の上で躍り、月に反射して矢のような鋭い光を放った。
ファイヴは妖艶なほど真っ赤な口を尖らせ、視線の先に立つセヴンを睨む。
「個性を尊重することは、とっても大事なのよー? 分かんないのー?」
「そのセリフをお前が言っても、自己中心的な考えを持った奴が自分のいいように、もっともらしい言葉を並べ立てているようにしか聞こえないのは、オレだけか?」
肩に軽くかかるほどの、男性にしては長い銀髪と切れ長の目を持つ、長身で痩躯な体つきをした二十代半ばほどのセヴンは、ため息交じりに言葉をこぼす。
「奇遇ですね。実は私も、自己中心的な考えを持った人が自分のいいように、もっともらしい言葉を並べ立てているようにしか聞こえなかったんです」
「ひっどいじゃなぁい、二人ともー。セヴンはともかく、ナインまであたしの敵ー?」
ナインと呼ばれた、黒い長髪と静かな眼差しをした十代後半ほどに見える少女は、その目にかけている黒縁眼鏡の位置を右手で小さく上下させて直し、丁寧な口調を崩さないまま淡々と言葉を紡ぎ始める。
「確かに個性は大切です。しかし、あなたの場合は都合のいいように言葉を使っているだけではありませんか。それでは言葉が可哀そうです」
「えー。ひどーい! あ! ねぇー。シックスはどう思ってるのー?」
艶めく栗毛を揺らしながら、ファイヴはシックスと呼んだまだ幼い少女を振り向く。シックスは柔らかな白髪のショートボブをした、十歳になっているかなっていないかというほどの幼い女の子だった。
シックスへと期待を込めるファイヴに、セヴンは冷ややかな視線を浴びせる。
「シックスが、まともな意見を言うわけないだろう」
「五月蠅いわねー!」
ばっさりとセヴンに言われてしまい、ムキになるようにファイヴは口調を荒げ反抗した。
「あなたが五月蠅いんですよ。もう夜半じゃないですか」
ナインは呆れたような小声で呟き、星がちりばめられた漆黒の空を見上げる。
「…………」「…………」
ファイヴ、セヴンが黙したまま見つめる中、白髪の少女は、
「……おなか、すいた」
しゅんと顔を曇らせて、両手で自分のお腹を包み込んだ。
ファイヴの問いに対して的外れな答えを返したシックスを見つめ、ファイヴはがくりと肩を落とし、セヴンはふんと鼻を鳴らす。
「お遊びはここまでだ。そろそろ仕事に戻るぞ」
セヴンのその一言で、個性云々の話は打ち切りとなった。
それまで天を仰いでいたナインがふいに視線を下ろし、虚ろな眼差しでぼんやりと虚空を見つめるシックスを見る。
「――シックス。彼女の匂いは残っていますか?」
ナインの問いかけに、シックスは首をふらりと持ち上げ、くんくんと小さな鼻をひくつかせた。