scene 6
ブハッ!!
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声とともに、音もなく障子が開かれた。青白い光が、障子の隙間から部屋の中に滑り込む。
夜明け独特の涼やかな光とともに障子の向こうから姿を現したのは、
「主様を狙った敵は、抹殺いたしました。まだ刺客は数人いるかと思われますが、すぐにでも退散するでしょう」
黒髪の少女だった。
艶めく長髪は、頭の高い位置で団子に結んでいる。わずかに憂いを帯びたような瞳も、スリムだが出るところは出ている身体を覆う服も、光を吸収しているかのように黒い。服は丈の短い無地の着物のようなもの。腰帯も黒く、容易に夜闇に溶け込めそうな服装である。
「…………?」
シャノンはいきなり登場した少女と、その少女の服装を訝しむ。少女は〝くの一〟の格好をしていたのだが、くの一など異国人のシャノンは知るはずもなかった。
「彩乃、ありがとうございます。シャノンさん、こちらは入江彩乃です。彩乃は――私の守護をしてくださっている方です。彩乃。こちらはシャノン・アンヴィルさん。アシュリー王国出身だそうです。今は大きな怪我を負っておられますから、ここで休んでもらっています」
「あ、ども。シャノン・アンヴィル、です」
シャノンは布団の上で首だけをひょいっと動かして、小さくお辞儀をした。彩乃と呼ばれた少女はシャノンの姿を認めるや、洗練された無駄のない動きでその場に素早く跪いた。彩乃が背負っている刀から固い小さな音がたつ。
「この度は主様のお命をお守りいただき、誠にありがとうございました」
「え、あ、いや……。別に、ボクは大したことはしてないっていうか……」
シャノンは彩乃の大変畏まった態度に、しどろもどろになりながら答えた。困ったような表情をして、深々とお辞儀をしている彩乃を見つめる。
「とにかく、そんなに頭を下げないでくれ。本当に、そこまで礼を言われるほどのことはしてないし」
「いいえ。そのようなことはございません」
「……じゃあ、とにかく、頭を上げてほしい」
シャノンの言葉に、彩乃は頭をふっと上げた。サラリ、と漆黒の横髪が揺れる。
憂いを帯びてはいるが、強い意志を秘めた鋭い眼光をその瞳に宿す彩乃はシャノンの顔を一度見ると、また軽くお辞儀をした。上げた視線を、シャノンの寝ている布団を挟んだ向こう側に座っているユーフェミアへと移す。
「では、主様。私はこれで失礼いたします」
彩乃はそう言ってまた礼をすると、シャノンの足元を通って襖の方へ移動し、静かに襖を開くとその向こうへ消えた。
* * *
夜が完全に明け、光の溢れる朝が訪れる。
橙色をした太陽の光は、その日の始まりを告げながら世界を照らし出してゆく。
日の光に染まってゆく世界。その中に周りを海に囲まれた、巨大な大陸と小さな大陸が点在していた。その中の南半球に位置する、小さな大陸の一つ。そこに瑞穂の国はある。
大陸には、横長に大陸の北半分を占領している瑞穂の国と、残りを縦に二分した領土の東にアシュリー王国、残りの西にユバーフィールド及びグリニッジ連合王国がそれぞれ位置している。
さらに瑞穂の国の三分の二の土地は、鬱蒼とした巨大な森が占めていた。
その深い緑の中心にポツンと、凝視しているだけで目が痛くなりそうなほど鮮やかな薄紅が、四角く咲いている。鮮やかな薄紅の四角の中には、豪華絢爛な屋敷がどっしりと腰を据えていた。
そんな屋敷の中にある、障子や襖や木の壁に囲まれた小さめの広間。そこに一枚だけ敷かれた、白がまぶしい布団の上とその脇に、少女がいた。一人は茶髪碧眼。もう一人は金髪金眼だ。
「私は――ある宝石を、この建物の裏にある宝物庫で守っているのです。その宝石を狙って、宝石を守るために建物自体に結界を張っている私の命を奪うものが、度々やって来るのです。結界は、それを張っているものさえ殺せば、難なく解けてしまいますから。建物自体を破壊するという方法もありますが、それではあまりに労力がかかってしまいますからね」
金髪金眼の少女ユーフェミアの言葉に、茶髪碧眼の少女シャノンは絶句していた。
ユーフェミアはシャノンに返事を催促するようなことはせず、さきほど白胡が運んできた緑茶を、ゆっくりと啜る。運ばれてくると同時にしかめつらをしたシャノンにもすすめていたが、アシュリー王国で一般的に飲まれている紅茶とは違った茶の色と、独特の味があまり気に入らなかったようで、口を一度つけただけであとは飲もうとしなかった。
「……っと。え?」
「はい? 他に何か聞きたいことがあるのならば、質問してくださって結構ですよ」
ユーフェミアは丁寧に正直にシャノンに対応していたが、反対にシャノンはユーフェミアの言葉に困惑していた。
「あ、え、いや……。そういうことじゃなくて……。まさか、きちんとボクの問いに答えてくれるとは思っていなかったから、拍子抜けしちまって……」
ユーフェミアは、湯呑みをその白く長い指で包み込むようにして持ったまま、にこりと笑った。
「そうですか? 私は〝何故命を狙われているのか?〟という貴女の問いに、素直に答えただけですよ?」
ユーフェミアは再度、湯呑みに口をつける。温かな緑の茶が、ユーフェミアの中へと消えてゆく。シャノンは、自分のために運ばれた緑茶を見つめる。静謐な水面には、薄く緑に色づいたシャノンが水面を見つめるシャノンを見つめ返していた。緑茶から上がる白い湯気は、舞っているかのように優雅に揺らめく。湯気とともに、茶の温度はどんどん外へと逃げていた。
「いや……。べつにイヤなら答えてくれなくてもいいって言ったし、なんか、ワケありそうだったから、まさか本当に答えてくれるとは思ってもいなかったし……」
「それにしても、そこまで驚くことでしょうか? それとも――」
ユーフェミアはそこで、勿体ぶるかのように言葉を切った。
神秘的に閃く光を金眼に宿し、ユーフェミアはシャノンを静かに見据えた。
「失礼かもしれないですけど、もしかして――貴女の周りには、今まで素直な人がいなかったのではないですか?」
大変長らくお待たせして、申し訳ございません。
一応下書きのほうではact 1、act 2はできております。
ちなみにact 1のほうはA4用紙42枚分、act 2のほうはA4用紙38枚分あります。
現在act 3の4枚目を書き中です……。