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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
6/110

scene 5

 金髪金眼の主様はその整った顔をほころばせ、ゆっくりと口を開いた。

「私は、月倉(つきくら)ユーフェミアと申します」

「ユーフェミア……? ユーフェミアっていうのは、この国にもよくある名なのか? ボクの国にもある名なんだけど……?」

 眉を寄せたシャノンに、ユーフェミアと名乗った少女は微笑んだまま、首を横に振った。今は腰へ向けてストレートに下ろしている蜜色の髪が、さらりと揺れる。

「いいえ。違います。この国、瑞穂(みずほ)の国で名を付ける場合は、主に漢字を用います」

「じゃあ、何であんたは名前がカタカナなんだ? ……まさか〝ユーフェミア〟を漢字で書くんじゃねぇだろうな?」

「えぇ。そうですよ?」

 まるで「一足す一は二ですか?」という答えなど分かりきった問いに対し、平然と淡々と答えるようにしてユーフェミアは言った。

「…………」

 しばしの沈黙。シャノンは顔をしかめて思考中。

「――というのは、冗談です」

「…………。なぁ、冗談を真顔で言わないでくれ。本気(マジ)で頭の中で〝ユーフェミア〟を漢字変換しちまったじゃねーかよ」

 シャノンの呆れた声に、クスクスとユーフェミアは笑う。

「私、貴女の国のアシュリー王国と、ここ瑞穂の国のハーフなのです。だから目と髪が金色なのです。金髪金眼は、そちらの国では少なくないでしょう?」

 ユーフェミアの言葉に、シャノンはこくんと頷く。

「確かに。ボクの国では、その色は珍しくない。ま、ボクみたいな栗毛の人もいるにはいるけど」

 シャノンは視線を上げて、その栗色の前髪を見つめた。髪が短いため、横から髪は見えない。

「そうなのですか。では、その碧眼(へきがん)もそうなのですか?」

「あぁ。蒼い瞳もボクの国ではよく――」

 そこまで言ったときだった。

 ふっとシャノンが発言を止め、警戒の姿勢をとる。瞬間的に身体を緊張させたシャノンを見て眉をひそめたユーフェミアに、

「失礼!」

 シャノンは急くようにして短く言葉を発し、ユーフェミアの背中に腕を回すと、一気に布団の上に引き倒した。

「えっ!? なっ――」

 驚きと共にそう言ったユーフェミアの声に、風を切り裂く鋭い音が重なった。

 己の声をかき消したその音で事態を察知したユーフェミアは、黙ってその場で息をひそめ、身体の動きの一切を停止させた。

「――大丈夫か?」

「えぇ。私は大丈夫です。貴方は?」

「ボクも何とか。……傷がちょっと痛かったけど」

 少しだけ顔をしかめたシャノンはちらりと視線を上げ、すぐ(そば)に設置された(ふすま)を見た。

 白く滑らかな手触りの生地を持つ襖には、鋭利な刃物が不気味に白刃を煌めかせながら深々と突き刺さっていた。襖に刺さった反動か、刃物はビブラートに似た音を小さく響かせながら上下に細かく振動している。

 シャノンは黙したまま慎重そうに、ふすまと対になって並ぶ障子の方へと視線だけを動かした。

 刃物が刺さっている反対側。そこには先ほどまでなかった大きな穴が、一つだけあいていた。

「ユーフェミア。このままの体勢をキープしていろ。ボクは様子を見てくる」

「それは頷けない話ですね」

「……ボクの身を案じているなら、必要ない。何故(なぜ)命を狙われているのかは知らないけど、自分を助けてくれた者を助けることは、おかしいことじゃないだろ」

「貴方はもっと自重(じちょう)しなさい。傷が痛むのでしょう? それ以上動けばどれほどの痛みに襲われるか分かっているのですか?」

 必然的に、小声で二人は言葉を交わす。シャノンは(わず)かに溜め息をつき、ユーフェミアの言葉に背いて自分が最初に言ったことを実行しようとした。――が、

「それに貴方が行かずとも、私を守護してくれる者くらいはいます」

 ユーフェミアはうっすらと微笑んで、身体を動かした。起き上がろうとしているのだと察したシャノンは、先ほどのユーフェミアの言葉を信じ、すっと身を引いてユーフェミアが上体を起こせるようにした。

 シャノンが布団の上で体勢を整えると共に、

「主様、ご無事ですか?」

 女性のアルト声が、その場に響いた。

ユーフェミアの口調を変えたり、描写を足したりしたのでお手数ですが、act0の最初から読みなおし頂けると嬉しいです。

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