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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 2 夜半の月、砂上の旅
59/110

scene 5

「あの……。彩乃さんは、どこかお身体の具合がよろしくないのですか」

 ユーフェミアは畦道を歩む彩乃の背を目で追いながら、恐る恐る問うた。その問いに、海棠は「あぁ」と短く肯定する。

「実は……。おぬしが知っておるかどうかは分からぬが、彩乃は〝呪われし瞳の子〟なのだ」

「なっ……。呪われし、瞳の子……。それでは、あの……」

「あぁ。未だに、その病気の詳しい原因も治療法も見つかっていない。だから……どうしようもない、病気だ。一年と数か月前、彩乃は突然発病してしまった」

「そう、だったのですか……。申し訳ありません。余計なことをお聞きしてしまって……」

 ユーフェミアは大変反省しているという風に顔を歪め、小さく俯く。少女の憂い顔を見、慌てて海棠は首を振る。

「いいんだ。おぬしがそのように落ち込まずとも。彩乃の病気は、某が必ず治すのだと決めたのだ」

「……海棠さんは、お医者様を目指してらっしゃるのですか?」

「え。あ、いや。そうではない」

 少し戸惑ったような、海棠の曖昧な返答。ユーフェミアはきょとんと小首を傾げ、口を開く。

「では、どうなさるおつもりなのですか。病を治すのは、お医者様の役目では?」

「あ、あぁ。そうだが、某の場合は――」

 ぎこちなく紡がれる海棠の言葉に、

「海棠。仕事サボって、なぁに可愛い()口説いてるんだ」

 男性の声が重なった。柔らかく心地よいその声質は、包容力がありとても魅力的であった。

「あっ」

 そんな声に反応して、海棠は素早く右を向いた。そんな海棠につられるようにして、ユーフェミアも海棠と同じ方向を見る。二人の視線の先。そこにいたのは、

「全く。最近の子は、ませてるなー」

 黒眼黒髪の、男性だった。一つにまとめられた長髪と、薄い銀縁フレームの眼鏡が特徴的な童顔の男性だ。顔つきは、海棠と似通っている。

「とっ、父様(とうさま)!」

 驚いたように海棠は声を僅かに荒げ、それから慌てたようにユーフェミアと父親を交互に見つめる。

「その、これは、口説いていたのではないぞ! 某は、この娘の手毬を拾っただけであり……。その、そんなやましいことなぞ、けしてしているわけでは……」

「ほぉーう」

 ニタニタ顔で父親は、海棠に近づく。ユーフェミアは突然登場したこの男性、海棠の父に人見知りをしているのか、木の陰の再度身を隠してしまった。

 木の後ろにこそこそと隠れてしまったユーフェミアを、海棠の父は目敏(ざと)く見つける。

「ふむ。これは、これは……。アシュリー人とのハーフの子だな」

 海棠の父は、ユーフェミアの目線の高さに合わせるため腰と膝を折った。そして驚いたように目を見開き、恥ずかしそうに木と一体化しようとしているユーフェミアに微笑みかけた。

「今日は。私はこいつの父親、入江蓬。君は?」

「つっ、月倉、ユーフェマッ……ユーフェミア、です……」

 ユーフェミアは舌を噛んでしまい、耳まで真っ赤にして俯いた。そんなユーフェミアの姿を、蓬は微笑んだまま見つめる。

「ユーフェミアちゃんだね。名前がカタカナってことは、母親がアシュリー人か」

 蓬は腰と膝を真っすぐにのばし、ニタリと海棠を上から見下げる。人をからかうような笑みを浮かべた父親を、海棠はムスッとした顔で見上げる。

「それじゃ。若者はどうぞごゆっくり。年寄りは退散するよ」

「そうかよ。あっ。それから、今日は何故こんなに早い時間に帰ったんだ?」

「あぁ。仕事が早く終わってな。それよりも。彩乃は?」

「体調が良いと言って先ほどまでここにいたんだが、急に咳が出だしたから家へ戻るように言った。多分、今は布団で大人しくしているだろう」

「そうか。ありがとうな。お兄さん。それから、ユーフェミアちゃんとは仲良くするんだぞ。いいな」

 幼い笑みを浮かべた蓬は、彩乃も通った畦道を歩み家へと向かう。

「……お若いのですね。海棠さんと彩乃さんのお父上様」

「え。そうか? ……某には子供(ガキ)っぽすぎると思うのだが」

「いいえ。素敵なお父上様です。……ところで、先ほどから気になっていたのですが……」

「うん?」

 ユーフェミアの問いに、海棠は首をかしげる。

「先ほど、何故蓬様は私がアシュリー人とのハーフだとお分かりになられたのでしょうか。そのようなこと、私は一言も言っておりませんのに……」

 海棠に続くようにして、ユーフェミアが首をかしげる。海棠は「あぁ」と声を上げ、傾けていた首を起こした。

「それはな、父様が魔術師だからだ。人には、〝気〟の流れというものがあってだな、魔術師にはその気の流れが分かるんだ。その流れは、年齢や性別、人種など様々なことで一人ひとり違うし、体調や感情などで簡単に変わる。だから、父様はユーフェミアの中にアシュリー人の流れを感じたんだよ」

 海棠は説明を終え、すぐにあっと小さく声を上げた。

「何ですか?」

「……その。名前、呼び捨てで、構わなかったか?」


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