scene 4
「私が、アンドロイドだカら、アルよ」
「あ、あんどろいど?」
かなり不可思議な発音で、その聞きなれない言葉を少女は言った。
「って、何だ?」
少女の問いに、アンドロイドの少女はにっこりとしたまま答える。
「アンドロイドとハ、人間を模して造らレたロボットのコと、アルよ」
「……サイボーグの事か?」
「サイボーグとアンドロイドは違う、アル。改造人間は、人間の臓器の一部を使って造り出しタもの、アルね。人造人間は、身体すべてを機械などの人造物で造られたもの、アルよ」
「……まぁ。そんなことは今はどうでもいい。それよりも、ボクを助けてくれたのは、お前か?」
「違う、アル。今から、貴殿を助ケた主様を呼んデくる、アルよ」
「ぬ、主様……? じゃあ、その人がボクを助けてくれたんだな」
立ちあがり、部屋を出て行こうとしていたアンドロイドは、少女の言葉にゆっくりと首肯する。そしてすぐ近くにある、優雅に舞う鷹が描かれた大きなふすまを静かに開けて出て行った。
ふすまを開けた瞬間、真っ暗な部屋に明るい白の光が細く差し込んだ。が、すぐに消える。
「一体、ここは……?」
部屋に一人取り残された少女は、ゆっくりと周りを見回した。
少女が今いるのは、畳敷きの広い部屋。大広間、と言っても良いであろう広さだ。
布団の上に座る少女の数メートル先の正面には、十数メートルにも及ぶ障子が連なり、背後には先ほどアンドロイドが出て行ったふすまが障子と対称になるようにして十数メートル並ぶ。装飾品は、少女の右側の壁に掛けられた水墨画の掛け軸だけ。飾り気のない、しかし畳も障子もふすまも掛け軸も、高価な物ばかりを使っている広い部屋であった。
真っ白い障子の紙から透けて入ってくる光は、冴え冴えとして青白い。時間帯はどうやら、夜明け前ほどのようだ。
「見慣れない造りだな。それに、さっきの〝あんどろいど〟とかいう奴の服装も珍しかったな……。まぁ、無理もないか。此処はボクの国じゃない。――ここは、ボクには右も左も分からない外国なんだ」
少女は物悲しげにポツリと呟き、その真っ直ぐで美しい碧眼を閉じた。
暫く少女はそのまま、何かを思考しているようだった。やがてゆるりと瞼を開き、傷が痛まない程度の速さでゆっくりと振り返る。
刹那、
「傷の具合はどうですか? 娘さん」
吹き渡る風のように涼やかな、凛とした声が光と共に現れた。
声の主――主様というらしい人物は、先ほどアンドロイドが出て行ったふすまから部屋に入ってきた。後光に照らされたその姿は、真っ黒なシルエットでしか見えない。
「……お前が、主様とやらか?」
少女は光が眩しいのか、目を細めて主様を見つめる。
「そうです。――あ。光が眩しいですよね? 白胡。そちらの部屋の明かりを消してください。消したら貴方は下がっていいですよ」
「分かりマした、アル」
パチン、と小さく指の鳴る音が響く。それと同時に、ろうそくの火が一瞬で吹き消されたかのように、ふっと隣の部屋の明かりが消えた。明かりが消えた部屋側から〝白胡〟と呼ばれたクリーム色の髪を持つアンドロイドが、ふすまをゆっくりと閉めた。
「さてと。こちらの部屋の電気を付けても良いですか?」
主様の問いに、今までの出来事をぼぅっと見ていた少女は、はっとしたように答える。
「あ、あぁ。ボクは、構わない」
「そうですか。では」
パチンッ。
軽やかな指の音と共に、二人の少女がいる部屋に柔らかな明かりが灯った。
「…………っ」
暗闇に目が慣れていた少女は顔をしかめながらも、ゆっくりと目を光に慣らしていく。
やがて目が幾分か慣れた少女は、立っている主様を見るために視線を上げた。
「改めて、初めまして。私があなたを助けた者です」
少女の視線を受け止めた主様は、そう言った。そして、布団の上に座る少女が見上げなくてもいいように、体勢を低くし、畳の上に正座する。
少女はそんな主様を見、その美しさに暫し呆気にとられていた。
主様は夜桜と月を眺めていた、蜜色の少女だった。
「……は、初め、まして」
主様の挨拶から僅かの間が空いた後、少女はやっとのことでそう言った。そして、
「っと……。ボクは、ボクの名前はシャノン。シャノン・アンヴィル。この国の東に隣接するアシュリー王国生まれだ」
シャノン、と名乗った少女は主様の蜜色の瞳を、自分の碧い瞳でじっと見つめ返していた。
インターネットで調べたら、人造人間=アンドロイドになってるけど、人造人間って、ホムンクルスじゃないっけ?