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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
46/110

scene 45

 姉は見違えるほど綺麗になっていた。もともと骨ばっていた頬には適度に肉が付き、汚れでくすんでいた金髪は、きちんと手入れがされていると分かる美しい色に輝いている。美しいレースやフリル、リボンがついた白い清楚なワンピースを身に纏い、ストレートの金髪には淡い水色のリボンが結ばれていた。

 でも――とても綺麗だけど、何か違う。今の姉はキラキラしていて顔立ちも一層整ったけど、〝彼女〟の方が何万倍も綺麗だ。……どうしてだろう?

「――あ。そうか」

 自問自答。

 頭の中の問いの答えは、一瞬で分かった。

 姉は確かに美人だけど、その美しさの大半は着飾って取り付けているようなものだからだ。着飾ることで作り上げた偽りの美しさを姉は纏っているだけ。だから、自然体の美しさを持っている彼女の方が、とても綺麗だと感じるんだ。……こんなセリフ、彼女の前じゃ恥ずかしすぎて絶対に言えないけどな。

 ボクが独り思考している間も、姉はイライラしたような顔をしてずっと同じ場所に立っていた。が、良く見るとその足は僅かに震えている。どうやらフードを深くかぶっているから正体の分からないボクのことが怖いらしい。だからこれ以上近付けないでいるらしい。

「いい加減、素顔を見せたらどうなの? 卑怯者」


「卑怯者なんかじゃねーよ。ただ単に、ボクは顔を見られたくないだけだ」


 ボクは声だけは威勢の良い姉に向かって言い返す。さすがに言葉遣いが変わっているから、相手はボクだと、自分の妹だと気づかないはずだ。そう思ったが、

「――ねぇ、貴方。あの……私と何処かでお会いしたことは無い? ……声を聞いたことがある気がするのだけれど」

 姉は以外にも耳が良いらしい。小鳥のように小首を傾げた姉は、怪訝そうな顔でこちらを見つめる。

 正体がバレると厄介だと思ったボクは、顔を見せるのだけは避けたかったからそのまま立ち去ろうと、身体を反転させようとした。が、横を向いたところで、それは起きた。

「ぐっ――」

 突然、強い風が横を向いたボクの正面から吹きつけてきたんだ。ボクが慌ててフードを抑える間も与えずに、風はボクの頭からフードを剥がし取る。風に、灰色のフードとボクの短い茶髪が舞う。

「なっ――!」

 フードが外れてしまったボクを見て、姉は息をのんだようだ。

 ――こうなりゃ、もう誤魔化すことなんてできない。

 大きく息をつきつつ、ボクは姉と正面から向かい合った。今度は、フードなしで。

「う、そ……。貴方、シャノン……? 本当に――」

「あぁ。そうだよ。てめぇらが何カ月か前にあの男に売りやがったシャノンだよ。まさか妹の顔を数カ月の間に忘れたなんて、ホザくんじゃねーぞ」

「そんな……。だって――。それに、貴方、その言葉遣い。もっと、シャノンは、」

「あんな風にされて、性格がネジれない方が可笑しいってーの」

 ボク顔をぶすっと歪めながら、姉を見る。

「それに、どうして、貴方が、ここに――?」

 つっかえつっかえ話す姉は、卒倒してしまいそうなほど青白い顔をしていた。

「ンなの、逃げてきたからに決まってんだろ。……ボクにもどうやって逃げてきたのかは、よく分かンねーけど。――じゃ。特に用は無いから、ボクは行く。あばよ。クラリッサ・アンヴィルさん」

 皮肉っぽい笑みを浮かべて、ボクは姉をフルネームで呼んでやった。ボクのもと(・・)姉は身体を硬直させたままだ。

 ボクはフードを丁寧にかぶりなおし、それを手で押さえながら姉に背を向けた。

 編み上げブーツをはいた足が、一歩前へと歩み出す。

今回も短くて申し訳ないですoyz



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