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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
45/110

scene 44

今日は何かと時間がありませんので、短めでお送りしています。

 僅かにカールした茶髪。ややつり上がった淡い茶色の瞳。フリルのあしらわれた紫のドレス。色とりどりの花でできた重たげな髪飾り。歩くだけで疲れそうなほど高いヒールの黒い靴。

 着ているものこそ立派になりはしたが、やはり先ほどの店から出てきた人物は紛れもないボクの母親だった。ちなみに体系も、以前よりかなりふくよかになっている。

 ボクは見間違えようのないその人物を今――ストーカーしている。……いや。ストーカーっていうと悪く聞こえるな。そう、ただ尾行しているんだ。何故って、家を探しだすために。家なら以前住んでいた場所へ戻れば良いのではと思うかもしれないけど、どうせこんな服を着てこんなところで買い物をしているくらいだ。きっと、家も北側に立て直しただろうと見当をつけた。

 前にも言ったけど、ボクはけして家に帰りたいわけじゃない。ただ、好奇心というか、気まぐれというか。別に復讐が目的じゃない。何故か復讐してやりたいという気持ちは一向に湧き上がってこない。もし、復讐するとしたらあのじじいにするべきだと思うしな。

 とにかくボクは、足音を忍ばせて母親の後をつけていた。眼前で鼻歌なんか歌いながら悠々と足を運ぶ母は、ボクに全く気付いていないようだ。

 母は以外にも遠くから来ているようだった。あの店からかなり歩いた。……良く考えたら、馬車を手配したら良いだけの話なのに、何故母は徒歩で? そう訝しく思ったボクは、思った後すぐに思い出した。

 母は、歩くことが好きだった。というか、運動が好きだったんだ。まぁ、今は太った体系を戻すために歩いているのかもしれないけど。

 などと、必要のないことをあれこれ考えているうちに、母はとある門の前で立ち止まった。ボクは慌ててそばの路地に身を隠し、母が門を開けてその中へ入っていく姿を見つめた。どうやら、新しい家はこの建物の様だ。

 白い石造りの五階建て。屋根は青灰色(せいかいしょく)。建物はコの字形で、建物に囲まれるようにしてある庭には巨大な噴水がどっかりと腰をおろしている。

 ざっと、建物のつくりはこんな感じだった。バーンズ家の家の大きさには負けるけれど、こんな豪邸を建てるなど相当の金が必要だ。ボクはそこで、自分はかなりの大金で買われたことが分かった。

 別に落ち込んだりはしない。むしろ今は――清々しい。

 じじいから逃げられた清々しさ。彼女のいるこの街に戻ってくることができた清々しさ。

 ボクは満たされたような気分になって、思い切り息を吸い込んだ。――よし。行こう。もう、この家に様は無い。母親にも会えたし、今の家も見ることができた。あとは、彼女に会いに行くだけだ。きっとじじいはボクを捉えるために追手を出すはずだ。その追手がボクに追いつく前に、速く彼女に会いに行かなければ。彼女に迷惑がかからないように、追手が迫る前に彼女の前から消えなければ。

 ボクは家に背を向けると、ゆっくりと足を一歩踏み出し、


「ちょっと!」


 耳に届いた甲高い声に、足を止めざるを得なかった。背後からその声は聞こえたが、ボクはあえて振り向かなかった。

 ――何故ってこの声を、知っているから。

「そこの貴方、待ちなさい。一体何のつもり? 路地からこそこそと家をじーっと見て。まさか、盗みに入ろうなんて考えてないでしょうね? 入ったところで貴方なんて、一瞬で警備の者たちに捕まるんだからね」

 ボクは密やかな吐息をつきながら、身体を百八十度回転させて建物と向き合った。否、建物の門の前に立っている少女と向かい合った。


「貴方誰? 顔くらい見せなさいよ」


 少女もとい――ボクの姉は眉をひそめてこちらを睨み据えていた。

さて。昔の家族にどんどんシャノンは会っていきますね~。

さあ……一体彼女にはいつ会えるのでしょうね?


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