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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
43/110

scene 42

昨日は投稿ができなくて申し訳ありませんッ!

何かと大変だったもの……で……ハイ。これは、ただのいいわけです;oyz

誠に申し訳ないですorz

 ヒトの足は、真っ赤な血をダラダラと流す。まっ白な肌に映える赤は、薄暗い部屋の中でさらに不気味さを増していた。しかし怪我を負っている当本人である少女は、眉ひとつ動かさない。

「っ……」

 ボクは自分の目が信じられず、大きく見開いた双眸を閉じられずにいた。口からは、走ったわけでもないのに、ハァハァと荒い息が漏れる。猿轡をされていて、かなり息苦しかった。

「どうだ? こいつらは、よほどのことがないかぎり死にはしない。大量出血で死ぬことも、出血量を抑える薬を投与しているからありえない」

 じじいはニタニタと笑い、続いて二度じじいの腕が跳ね上がる。硝煙の臭いが立ち込める中、ヒトの左脇腹が血を撒き散らし、頭の左脇が深く抉られ金色の髪の毛が宙に舞った。

 闇の漆黒と血の真紅と髪の黄金が混ざり合い、絡み合う。硝煙の臭いと血の鉄のような生臭いにおいが鼻孔をつき、吐き気が込み上げる。ボクは胸を右手で掴み、ごくりと生唾を飲み込んだ。

 撃たれた少女は二度身体を揺らす。脇腹を撃たれたときに身体をくの字に曲げ、頭を撃たれたときは顔をのけ反らせた。

 普通の人ならばこのあたりで大量出血になって瀕死状態だろうが、しかし今ボクの目の前にいる少女は一向に死ぬそぶりを見せない。

 少女の後ろには真っ赤に染められた床が広がり、そこに僅かな肉片と金色の髪が散らばっている。なくなった頭の部分と脇腹からは、血がとろりと緩やかに流れる。

 金髪は僅かに赤黒い血で染まっていた。まっ白な経帷子は、真っ赤な鮮血の色に染められている。

「……っ!」

 ボクは顔を歪めて視線を床へと逸らしていた。目頭が、熱い。頬が湿り、床に黒っぽい染みができる。

「おや、どうしたんだシャノン? どうして泣く必要がある? こんなモノに感情移入してしまうとは、何と愚かな」

 ボクは、どんなに傷を負おうと倒れない少女の姿を見ることが耐えられなくなったボクは、気付かぬ間に涙を流していた。我ながら、自分は強がっている割に泣き虫だと情けなく思う。でも――

あまりに残酷すぎる。それに、どうしても彼女の姿が重なってしまう……。彼女が、心優しい彼女が傷つくことだけは、許せない。


 カチリ


 ふんとため息をついた男が、再度銃を構える。不気味に黒光りする銃口が向いているのは……金髪の少女の心臓。

 はっと見開いたボクの瞳に、少女の緑の瞳が映る。

――その瞳は、彼女に似たその緑の瞳の奥には、悲哀を訴えるような色が浮かんでいた。

 緑の瞳が涙に潤み、瞳だけが切に「タスケテ」と訴える。

「あ、あぁ……。うああぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 くぐもった咆哮。唯一感情の残っているかのような、悲しげな少女の瞳を見たボクは叫び声を上げ、涙を飛び散らせながら床を蹴ってじじいとの数メートルの間を詰め、その反動に任せてじじいに思い切り体当たりをした。

「なっ!」

 じじいはバランスを崩し、床に盛大な音を立てながら身体を強かに打ちつけた。その上に被さるようにして、ボクも勢い余って倒れる。倒れた時の反動で、じじいの手からボクを繋いでいるロープと銃が離れる。

「うあぁぁぁぁぁ――!」

 猿轡によって籠っている叫び声を上げながら、ボクは縛られた両腕をじじいで容赦なく殴りつける。自制が効かないほど怒りにまかせてめちゃくちゃにじじいを殴りつけ、そして、

「っ――!」

 思い切り、腹部を蹴り上げられた。そのままボクの身体は宙を飛び、鈍い音とともに一つのガラスケ-スに背中からぶつかる。頑丈らしいガラスケースはボクがぶつかった位じゃびくともせず、ぶつかったボクはズルズルと力なく足から床に崩れる。反対にぼんやりとする視界の中で、じじいはフラフラと不安定に揺れながらも立ちあがろうとしていた。

「全く。()しからん奴だ。私に刃向かうな! お前は私の言うことを黙って聞いていれば良い!」

 じじいは声を荒げ、口を切ったのか血が混ざった唾液を床に吐き出した。その灰色の瞳はぎんとボクを睨みつける。ボクはフーフーと荒い息を吐き続ける。ぶつけた後頭部が鈍く疼くように痛む。

「ここにいる奴らは全員、大きな力を得たいと自ら望んだ者ばかりだ。私はその願いを叶えたまでのこと。その何が悪い?」

 『悪いに決まってる! こいつらは自分がこんな姿になることなんて望んでいなかったはずだ! それに、現にこの少女は泣いているじゃないか!』

 もごもごとする口で叫ぶ。が、それは猿轡を通して全く理解不能な言葉になっていた。

 ボクはじじいを鋭く睨みつける。じじいは先ほどまでボクを睨んでいたくせに何が可笑しいのか、クスクスと身体を揺らして笑い始めた。ボクが思い切り殴った頬は赤くなり、やはり口の中を切ったのか口の端からは血を流している。

「もういい。そろそろお遊びも飽きたな。もうこいつは使いものにならない――」

 じじいはフラフラとしながらも、そばに落ちていたものを拾う。それは黒光りする、じじいが先ほどまで持っていた、リヴォルバー。

「っ――」

 『やめろ!』と叫びたかったが、生憎もう叫ぶ体力もボクにはなかった。相変わらず金髪でボロボロのヒトは、同じ場所に立ちつくしていた。その闇と憂いを秘めているような瞳から、透明な美しい雫がこぼれる。


「――手っ取り早く、処分することにするか」


 じじいの寒気が走るほどひやりとした冷酷な声が、消えかけの炎を吹き消すようにそっと呟く。ボクの口は思わず叫ぶために開いてしまったが、しかしそのまま声を発することはできなかった。

 あっけない発砲音。消える少女の瞳。飛び散る肉片と血。揺れる少女の身体。

 金髪緑眼が美しかった少女は頭の上部を吹き飛ばされ、息絶えてしまった。

 

 刹那、ボクの頭の中で熱い何かが弾けた――。



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