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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
42/110

scene 41

 ボクは目を見開き、闇にそびえるヒトビトを呆然と眺めた。部屋がかなり広く奥の方までは良く見えないが、それは数にして五十を優に超えている。

「すばらしいだろう。これはすべて、痛みを感じないヒトだ。ちなみに、もとは普通の人間だがな」

 その言葉にボクは驚いて、右斜め前に立つじじいを振り仰ぐ。じじいはにたりと気色悪く笑っていた。ボクはそのできれば拝みたくはないキモい顔を、目を細めて睨みつける。

 もとは普通の人間だ? ふざけんな! 普通だった人たちを、こんな普通じゃない姿にしやがって。痛みを感じないってことがどういうことか分かってんのか!? それはもう、人間として生きていけないってことなんだよ!

 ボクは思い切りボコりながら、じじいにそう言ってやりたかった。が生憎(あいにく)口も手も動きを塞がれているため、実際にはできないことだったけど。

「言えば、これらは魔術の科学の結晶、だな。魔術と科学があってこそできたものなのだよ。魔術でこれらを操り、科学で常人より勝る力を与えている。まさに理想が現実化したようなものだ」

 じじいは何がそんなに可笑しいのか、クックッと笑い続ける。ボクはじじいの笑い顔を見るだけで、吐き気が込み上げてきた。

 必死に吐き気を抑えているボクを余所に、じじいは「そうだ」と指を軽快に鳴らす。


「一つ、試してみよう」


 じじいは閃いたと言わんばかりに顔に喜色を灯す。

「?」

 試してみるという言葉の意味が分からないボクは、小首を傾げる。先ほどから身体中が、速くここから出たいと必死に訴えている。けれどボクの自由は今、この目の前の忌々しいじじいに握られているために逃げることは不可能だ。

 じじいは身体の訴えと格闘するボクを尻目に、足音を高く響かせながら近くにそびえる一つのガラスケースに歩み寄った。ロープで繋がれているから、無論イヤでもボクとじじいは行動がともになる。

 数メートルの余裕を開け、ボクは突然何が起きても良いように神経をとがらせて身構える。

「これで良いか」

 じじいは呟くや否、ガラスケースの下部に張り出している台の様な部分の上に広がる広いプレートに両手で触れた。と思えば、その両手がプレートの上でキーボードを叩くように動き出す。それは慣れたような、滑らかな手つきであった。

 最後にじじいが、プレートの隅にある小さな赤いボタンを押す。と同時に、ケースの中の水の様な液体とヒトについていたたくさんの管が消え、最後にはガラスケース自体も空気に溶けるように消えてなくなった。

「!」

 ボクは驚きに目を瞠る。すべてが消えたところに、ヒトだけが残される。そのヒトは、金髪が美しい十代半ばほどに見える少女だった。

 ガラスケースから出てきた少女は、まるで全身に骨がないかのように柔軟に身体を歪ませながら、強かに身体を床に打ちつけた。その姿は、ふいに糸を切られた操り人形(マリオネット)を連想させた。本来なら、床で身体を打つのはかなり痛いだろう。が、そいつはうめき声一つ上げなかった。床に這いつくばるようにして倒れる少女の顔に、てらてらと光る金髪が覆いかぶさる。

 そのおぞましい姿を見つめ、全身にぞわりと鳥肌が立つ。


「さて。実験開始だ」


 じじいは相変わらずニヤリと笑い、身にまとっている黒いスーツの懐に右手を差し込んだ。ボクはその手の動きをじっと見つめ、そこから取り出されたものを認めた刹那、驚きに双眸を見開いていた。

 じじいが懐から取り出したもの。それは、一丁の銃だった。

 威力が凄まじいであろう大口径に見えるそれは、ハンマーとレンコン状の回転式弾倉が確認できることからリヴォルバーだと察しが付く。

 銃を見たボクの心臓は、口から飛び出しては来ないのだろうかと心配になるほど高く強く波打つ。体内は、心臓の音だけが五月蠅く支配する。


 ――こいつ、一体何をする気だ?


 銃口は確実に、あのガラスケースから倒れながら出てきたヒトを狙っている。引き金に指をかけていないということは、まだ撃つ気は無いらしい。ボクはしかし、まるで自分が銃で狙われているような感覚に囚われていた。心臓は壊れてしまいそうな勢いで暴れ続け、額からは冷や汗が止めどなく流れる。視線は金髪のヒトから離すことができない。無理やり引き剥がそうと必死になるが、瞳が言うことを聞き入れてくれない。

 ヒトは不安定に身体を揺らしながら、ひどく緩慢な動作で身体を持ち上げた。ボサボサの長い金髪が揺れ、たくさん並んだガラスケースから発せられる光にその病的にまで白い肌が反射する。ヒトは本当に操り人形のようにゆらりと顔を持ち上げ、そして、


「っ――」


 ボクは小さくため息を漏らしていた。心臓は未だ早鐘を打つように壮大な音を響かせている。ヒトは、その金髪の少女は――

とても、〝彼女〟に似ていたのだ。

 金髪に緑色の瞳。発光する白い肌。美しさこそ彼女には劣るが、十分目の前の少女も美しかった。ただ、白い肌は不健康さをアピールするばかりで、緑の瞳は死んだ魚のように濁っていた。

 不安定に揺れながらも時間をかけてゆっくりと、ヒトはしっかりと地面に足をつけて身体の揺れを抑えながら立つことができた。少女は不安定な動きとは反対に、濁りきった緑の瞳をこちらを射るように鋭くむけた。

『ゴ要件ハ、何デショウ』

 小さく動いたその唇は、機械的な声を発した。

 じじいはその問いに返答はせず、ただニタニタと気味悪く笑うばかり。じじいを極力見たくはないボクは、顔を歪めて少女を静かに見つめていた。

 無音の時間が僅かに流れ、ふいにカチリという小さな音が静かな部屋にやけに大きく響いた。ボクにはそれが何の音なのか、その時は全く分からなかった。

 ボクの困惑もお構いなしに、次の瞬間小さな音に連動するようにして、空気を揺るがす大きな発砲音が上がった。刹那、少女の白い足から真っ赤な鮮血が飛び散る。ぐらりと、小さく少女の身体が(かし)いだ。

 その時になって、やっとボクは理解した。さっきのカチリという音。あれは、じじいが持っていたリヴォルバーのハンマーを上げた音だったんだ、と。

申し訳ありませんが、明日は高校の行事である宿泊研修で一日家におりません。

ですので、明日の小説投稿はできません。

ご了承ください。本当に申し訳ないです;


そして、感想を下さったnakonoko様、素晴らしく感嘆ばかりが漏れてしまうような感想、ありがとうございました。

では、次は明後日にお会いしましょう。

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