scene 36
今回は短いです;
本当に御免なさいoyz
傷つける、もの――。
「!」
刹那、ボクの頭の中である考えが目まぐるしく閃いた。しかし、その考えは、とても危険なものだ。命がけ――しかも、ボクとこの少女の命がかかるとても危ない行動。
どうする……どうする、と頭は悩むが、でも――
もうこれしか、方法はない。
「――お前」
「はぁ?」
震える少女の前に立つ女性は、ボクの方を向くといかにも軽蔑するような表情をした。
「今、お前の前には誰がいるか、答えろ」
ボクは慣れない命令口調で女性に言う。握りしめたこぶしに、大量の手汗が滲む。
「何言ってんの、アンタ? 頭イカれてんじゃ――」
「ヒカリよ。女性の頬を切りなさい」
呆れたような、馬鹿にしたような声で女性は言葉を発した。が、ボクの声と同時に頬に赤い筋が入ったため、強制終了せざるを得なくなった。
「……っ!」
女性は、はっと目を瞠りその頬に右手の平を持ってきて触れた。ベトリ、と女性の手に赤い液体がつく。女性は恐る恐る右手を目の前まで運び、その赤いものを信じられないという風に首を振りながら見つめる。
「もう一度、聞く。今、お前の前には誰がいる」
「あんた、ふざけた真似してると――」
「ヒカリよ。次は首を切りなさい」
またも、女性の言葉を遮断する。次は、首に赤い筋が走る。
女性は首に感じたであろう焼けるような痛みに、ぎゅっと顔を歪める。
「な、によ……。一体、あんた――あ。あぁ……。嘘、でしょ……。まさか――〝悪魔の娘〟」
「そうとも呼ばれている」
ボクは不貞腐れたように、言い返す。はっきり言ってボクはその呼び方が気に入らないのだ。まぁ、誰でももし自分が悪魔だなんて言われたら、少なからず嫌な気持ちを抱くだろうと思うけど。
ボクはすっと驚きで視線を彷徨わせている女性を見据え、もう一度口を開く。
「もう一度聞く。今、お前の前には誰がいる?」
ボクは余裕を見せるように、にっこりと笑って女性に聞く。蒼くなって震えていた少女は、呆気にとられてポカンとし、今は女性の方が蒼くなって震えている。
「どっ、奴隷の少女は、一人、います」
「何だ。分かってるじゃない。じゃあ、その二つの傷はどうしたの?」
「こっ、これは――庭を歩いていたときに、木の枝で、引っ掻いてしまいました」
「うん。じゃ、この子は今まで何をしていたの?」
少し口調を和らげたボクは、少女を手の平で示して言う。
「この子は、ずっと、真面目に焼却の仕事を、こなしていました」
「そうよね。分かったなら行っていいよ。さっき言ったことはすべて真実だからね。嘘はついちゃいけないからね」
「は、い」
女性は蒼白のまま屋敷へと踵を返した。そのまま早足で屋敷の中へと消えていく。
「――ふう」
ボクは女性の背を見送り、すぐに力を抜いた。平然を装っていたが、本当はとても緊張していたのだ。こちらにはヒカリがあるとはいえ、失敗してバーンズ家の人に事がバレたらボクも少女もただではいられなかっただろう。
「っと。ねぇ。大丈夫?」
安堵したボクは、続いて少女に声をかけた。少女は先ほどからこちらに背を向けたまま、完全に硬直している。
「ねぇ。ねぇってば、大丈夫なの?」
「……った」
「うん?」
「良、かった……」