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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
32/110

scene 31

「その言葉……ボクの母親と、同じだ」


 シャノンの驚いたような言葉とともに、ユーフェミアも驚いたような顔をしていた。今まで信じていた事実を、ひっくり返されたかのような表情だ。


「そうなのですか。ため息は、この国だけの迷信だと思っていました。ところで貴女の母上様はどんな――あ」


 そこではたと、ユーフェミアは自分の口元を手の平でおさえた。それは、人が口にしてはいけないことを口走ってしまった際、反射的にしてしまう行為。

 ユーフェミアの言葉を聞いていたシャノンの表情が、まるで苦虫を噛み潰した様になっていたのだ。

「……いいよ。ユーフェミア。もう、あんな奴のことなんて、気にしていない。あんなの、母親なんかじゃないから。っていうか、母親だってボクが認めてないしな」

 屈託なくシャノンは微笑んだ。口元は上へ引き上げられ、目元もすっと(すぼ)まっていたがその笑みはどこか哀愁漂うものであった。

 悲しげなシャノンのムリした笑みを見て、ユーフェミアは口元から手を離し、俯いて小さく「ごめんなさい」と謝った。


「いいって。あ――そうだ。ついでに、ボクの話をしよう。……ボクの家族と過去の話を」


「!」

 ユーフェミアは眼を見開き、シャノンを見つめた。

「シャノン……。どうしてっ――」

 〝どうして自分の傷を自ら深くするようなことをするの?〟そうユーフェミアは問おうとした。しかし、シャノンの瞳を見てふっと口をつぐんだ。

 シャノンの蒼い瞳は、とても鋭い光を宿していた。まるで、殺し合いをする敵を見据えるような鋭い瞳。

 その瞳はユーフェミア方向を向いているが、ユーフェミアを見てはいない。瞳が見据えるのは、彼女自身の過去。彼女が今まで逃げてきた、己の過去と今シャノンはまっすぐ向き合っているのだ。


「――」


 ユーフェミアはうっすらと開けていた口をすっと閉じ、シャノンの言葉を静かに待った。



 ――シャノン。あなたはこれから、この人と一緒に暮らすのよ。もう、戻ってきちゃ、ダメよ――


 遠い昔の思い出。鮮明にシャノンの心と頭と身体に染み込んで逃れることのできない、母親の声。


「ボクは――」


 冷たい冬は人の心までをも凍てつかせる。

 シャノンに向けられるのは、冬の空気よりもなお冷たい視線。


「――両親に、売られた。ボクの住んでいたアシュリー王国で人身売買は法律で禁止されてるけど、ボクの住んでた地域では秩序なんて言葉、意味をなしてなかった。ボクは――この力で多くの人を傷つけこの力のせいで――たくさん傷つけられてきた」


 シャノンは俯いて、力なくポツリポツリと語り始める。



 ――忌まわしい、あの冬の日とその前後の日々の記憶を。




今回は、超短くて御免なさい;

次回からシャノンの過去の物語になるので、ここで一区切りとさせていただきました。


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