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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
26/110

scene 25

 真紅の瞳を持つ〝シャノン〟は、その口元に悠然たる笑みを浮かべた。――刹那、

女性は右側前方から鋭い殺気を感じ、素早く身体を左へとずらした。

 とたんに、

「!」

 右頬に、焼けつくような痛みを感じた。女性は〝シャノン〟に視線を投げかけたまま、恐る恐る痛む右頬を左手で触れる。

「…………」

 乾いた左手が、べとりと濡れた。女性の額に、冷や汗が流れる。

「スコシ、ネライガズレタカナ? ツギハ、ヨケラレナイヨ」

 残忍な笑みを浮かべる〝シャノン〟は、女性を視線で突き刺すように見据える。歪につり上がったその口元とは対照的に、真紅の眼は全く笑っていなかった。

「くそっ……!」

 女性は舌打ちとともに、霧のように姿をかき消した。次の瞬間には先ほど立っていた場所から五メートルほど離れた場所に、姿を現す。が、

「!!」

 〝シャノン〟はその鮮血に染まったような瞳を、しっかりと女性の黒い瞳と合わせた。

――まるで、女性がそこに現れると分かっていたかのように。

「……っ」

 女性は今まで体感したことのない恐怖を、その身にひしひしと感じていた。

 くすくすとさも可笑しそうに笑う〝シャノン〟の瞳は、青白いヒカリを映し出す。まるで、この眼はしっかりとヒカリを見ることができていると証明しているかのように、赤い瞳の中で青いヒカリは舞い続ける。

 女性はゆっくりと舌で唇を湿らせた。

 逃げ切れない、恐怖。満ち溢れる殺気への、恐怖。どこからどこを襲われるか分からないことの、恐怖。

 女性は再度姿を消し、また違う場所に姿を現した。そして、

 先ほどと同じように、〝シャノン〟と眼が合う。

 ぎりっと奥歯をかみしめ、女性は再び移動しようとした。

 ――しかし、物事とはそう上手くいくものではない。

「!」

 女性が瞬間移動しようと身構えた刹那、何かに右足を払われた。そのままバランスを崩し、後ろへ倒れる。

 痛みに顔を歪めならが女性は払われた足に視線を投げる。そこには、鋭いナイフで切りつけられたかのような細い線が走っていた。その傷口から、真っ赤な血が(したた)っている。

「何故だ……。先ほども今回も、何も命令は無かったはず……」

「アア。ソウダ。〝カミノマナムスメ〟ノチカラニハ、カナラズケッテンガヒトツハアル。シカシ、コノチカラハ、ボウソウスルコトニヨッテ――ソノケッテンガナクナル。ツマリカンペキナハカイノチカラヲモツ、〝カミ〟トドウトウノソンザイニナルトイウコトダ」

 不気味な声は倒れた女性に向けてそう言った。そのすきに女性は立ちあがそうとしていたが、

「っ! 何故っ!」

 足が、動かなかった。

 まるで、足に筋肉の代わりに鉛をぎっしりと詰め込んでいるかのように、ピクリとも上がらないのだ。

「ムダナアラガイハヤメロ。ヒカリガオマエノカラダジュウヲトリカコミ、ウゴキヲフウジテイルンダ。ウゴケルワケガナイダロウ?」

 ニタリと無邪気に笑って、〝シャノン〟はその瞳に女性の姿を映し出す。その瞳の中の女性は、身体中を青白いヒカリに束縛されていた。

「コレデオトクイノシュンカンイドウモムコウトナル。イマノオマエハ、タダノニンゲンダ」

「っちっくしょう!」

 女性はその瞳に憎悪と恐怖を浮かべて〝シャノン〟を見つめ、

「バイバイ」

 にこやかに振る手と別れの挨拶とともに、心臓をヒカリに貫かれた。

 噴水のように溢れる鮮血。鮮血を浴びながら優雅とも思える微笑を浮かべる〝シャノン〟。女性は眼を見開き、身体からくたりと力を抜いた。

 女性にとどめを刺した〝シャノン〟は、

「っ……」

 顔を伏せて眼を閉じ、ぐらりと身体を揺らした。そして、

「っ(つう)

 額を抑えながら、体勢を持ち直した。背中には、致命傷ではないがそれなりに大きな傷が広がっている。開いた瞳は広大に広がる空の色を映し出した海のように美しい、蒼。瞳の中で舞うヒカリの筋は、瞳の蒼によって保護色と化し見ることができない。

「…………」

 その瞳はまず、破壊された建物の入り口と内装を認識し、次に、

「っ……!」

 心臓からゴポゴポと血をあふれさせている、一人の女性の死体を認めた。

「くそっ。また力が暴走しやがったのか……」

 少女は敵を倒したことに対しての喜びの表情ではなく、力が暴走したことへの憂いの表情に顔をいびつに歪めた。

 少女は、シャノンはゆっくりと深呼吸をするとすっと膝を折ってしゃがみ込み、女性の死体のそばへ跪いた。女性の漆黒の眼が見開かれたままの死に顔を一瞥し、そっと右手をその眼の上に添えた。そのまま手を下へずらすように滑らせ、女性の瞼を降ろした。

「――とりあえず、秘宝は盗まれなかったし、良かったとしよう」

 シャノンはすっと音もなく立ちあがり、ゆっくりと身体を反転させて後ろを振り返った。

――刹那、

「なっ!」

 双眸をこれ以上ないほど大きく瞠り、そこにあるもの(・・)をまじまじと見つめた。

「う、そ……だろ。これって、まさか、そんなっ……」

 そこにあったものは、黄土色をした独特の形の秘宝。

それは、


 〝砂漠の薔薇〟――。

ふっふっふ~。いよいよact 1も終焉に近づいてきましたよ~。

どんな展開がまっているんでしょーねー♪

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