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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
25/110

scene 24

ごめんなさいっ!

今日はいろいろと忙しくて、遅い時間にならないと投稿できませんでしたっ!!

「なっ!」

 女性は体重を前方にかけ、シャノンを後ろへと押し倒した。

 さわりと風に揺れる、漆黒と栗色の髪。

 呆気にとられているシャノンは、簡単に後方へバランスを崩してしまった。そのまま小柄な身体は、背中から地へと落下を始める。

「!」

 シャノンは自分を押し倒した女性の身体をつかんで一緒に地面へ落とすか、運が良ければ下敷きにしてやろうと頭をフル回転させて考えた。その考えを確信するより早く、シャノンの手は女性の身体を掴もうと伸びていた。が――

シャノンの前に、女性の姿はすでになかった。シャノンの両手が力強く、虚しく空を掴む。

「がはっ!」

 シャノンはなすすべもなく、背中を石畳にぶつけた。女性を掴もうと必死になっていたため、咄嗟(とっさ)に受け身さえ取れなかった。不幸中の幸いか頭は打たなかったが、しかし安息の余裕など全くない。

「なめるな。小娘」

「っ!」

 仰向けに倒れているシャノンにのしかかるようにして、女性が再び突如現れる。その細長い腕がシャノンの方へ伸び、シャノンの白く細い喉を掴んだ。反動で、シャノンの頭が乱暴に石畳へ打ちつけられる。

 ぎりぎりと女性は容赦なくシャノンの喉を締め上げる。シャノンのか細い喉笛が苦しげにはねる。首筋を通る頸動脈の血が一瞬で止められる。視界がかすみ始め、頭がぐらぐらし、意識が(おぼろ)になってゆく。

「私にはな、瞬間移動の力があるんだ。そして――」

 女性は首をしっかりと掴んだまま、瞳を閉じかけているシャノンを軽々と持ち上げた。

「っぐ」

 シャノンは小さく喘ぎ声を上げる。その身体は地から離れ、そして次の瞬間には、

 ――宙を飛んでいた。

 いや。正確には、女性に投げ飛ばされたのだ。シャノンは背中から、秘宝を納めているという建物を突っ込んでゆく。

「があああああああっ!!」

 壮絶な叫びとともに、シャノンは建物の入り口を木端微塵(こっぱみじん)に破壊した。

 背中を溢れる鮮血で真っ赤に染めたシャノンは、人形のように建物の床の上を力なくごろごろと転がる。

「うっ……。ぐっ……」

 木造の建物の木の床の上。そこにあるのは、痛みにのたうちまわるシャノンの姿。栗色の毛に粉塵(ふんじん)をまぶしながら呻くシャノンの奥には、黒塗りの豪華絢爛な装飾が施された低い台の上に置かれた秘宝があった。秘宝は(きら)びやかで鮮やかな、美しい青や緑や赤をしているかと思いきや、味気のない黄土色をしていた。よほど秘宝を乗せている台の方が、価値があるように見えるほどだ。

 もうもうと立ちこめる土煙りの中から、シャノンをやすやすと吹き飛ばした女性が姿を現す。女性は血だらけになって倒れるシャノンを冷ややかに、残忍に見つめる。

「私には、瞬間移動の力と怪力がある。小娘に勝ち目はない」

 女性はニヤリと笑ってシャノンを見、無防備に晒された腹部を蹴り上げた。シャノンの身体は糸も容易く宙を舞い、壁に激突して静止した。本物の人形のように、何の抵抗もない。

「お前は破壊の力を持つか。しかし、それは命令せねば発動しない。それが、欠点だな」

 シャノンは女性の言葉に何の反応も見せない。「フッ。くたばったか」と女性が悠然と微笑を浮かべた、刹那、

「ジャア、ソノケッテンサエナクナレバ、ボクノホウガツヨイトイウコトカ?」

 地の底からわき上がってきたような、低く不気味な声が突如として響いた。その声に女性の笑みはかき消え、はっとした表情がその顔に浮かぶ。

「何者だ?」

 すっと膝を折り、柔軟に身体を構えた女性は戦闘モードに入る。同時に、床で力なく転がっていたシャノンの身体がマリオネットが糸を上へひかれて立ちあがるように、俯いたままユラリと立ち上がった。

「ボクハボクダ」

「違う。お前は、その小娘ではないな。先ほどと気配が全く違う。……貴様、一体誰だ?」

 〝シャノン〟の口元がニヤリと笑う。俯けていた顔をグラリと上げ、その瞳を女性に向けた。

「っ? 赤……?」

 女性の瞳に、明らかな困惑の色が浮かぶ。

 〝シャノン〟の瞳は澄んだ碧眼ではなく、鮮血の様な残酷な赤に変わっていたのだ。

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