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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
24/110

scene 23

     *     *     *



 木造のいたって目立たない、質素でこじんまりとした円形の建物。その建物の入り口である観音開きの扉の前に、全身に黒い服をまとった一人の人間が立っていた。背丈からして大人、体格からして女性であることが分かる。

 女性は両開きの扉に厳重にかけられた鎖と、鎖を止めるための南京錠を漆黒の瞳でじっと睨みつけている。だらりと身体の横に垂らしている右手には、平穏な太陽の光に照らされて鋭く閃く両刃(もろは)の大ぶりな剣が握られていた。

 どうやら女性は、建物にかけられた鎖を刀で断ち切ろうとしているようだ。

「…………。――っ」

 女性は黒い布で覆われた口から大きく息を吸い、刀に両手をかけてすっと上段に構えた。漆黒の瞳を白い(まぶた)で閉ざし、精神を刀に添えた両手に統一させる。

 そして、

「そうはさせねぇぞ!!」

 背後から響いた勇ましい声によって、精神統一はぶち壊された。すっと姿を現す、闇色の瞳。

「何者!」

 女性は振り返り、上段に構えていた刀の切っ先を後方に向ける。

「てめぇに名乗る名なんてねぇんだよ」

 女性の後方には、爛漫の桜の木の枝に威勢よく立ち、鋭く女性を睨みつけている少年のような碧眼少女の姿があった。

子供(ガキ)か」

 女性は眼を細め、シャノンへ見下すような視線を投げた。木の上のシャノンは、女性の言葉に不敵な笑みを返す。

「子供だからって、甘く見んなよ。オバサン(・・・・)

「口の悪いクソガキだな」

「そっちこそ、秘宝を狙ってるクソババアだ」

「私はババアと言われる歳でない」

「ボクだって、ガキといわれる歳じゃねぇよ」

「私から見れば、お前はガキだ」

「そういうなら、てめぇだってボクから見ればババアだ」

 双方とも睨み合ったまま、似たような口悪い言いあいを繰り返す。しかしどちらも、相手に一歩たりとも勝ちを譲ったりしない。

「あぁ。もうこれじゃ、らちが明かない。さっさと片付けるか」

 シャノンはニヤリと自信に満ちた笑みを浮かべる。女性はシャノンの笑みを訝しく思い、眉をひそめた。

 瞬間、

「ヒカリよ。あいつが持っている剣を切り落としなさい」

 小声でシャノンは呟き、青い筋のヒカリは素早い動きで一斉に女性へ襲いかかる。

「っ!」

 刹那に女性の身体に寒気が走る。自分の身に迫って来る何か。それを感じた女性は神経を尖らせ、剣を慎重に構える。しかし、

「?」

 風が一陣舞っただけであった。女性は眉間にしわを寄せる。何も起きなかったことに対し、樹上の少女をあざ笑おうとしたその時。

 ――ふいに響く、乾いた音。はっと目を見開く女性。

「なっ!」

 女性はそこで、自分の剣の刀身がなくなっていることに気がついた。女性は先ほどの乾いた音の発信源である、地面に落ちた刀身を一瞥する。

「どうだ! ボクはクソガキなんかじゃない!」

「……いいや。立派なクソガキだ。〝神の愛娘〟などと、生意気な」

「!」

 女性は木の上のシャノンを睨みつける。一方のシャノンは、驚きで口を開いていた。

「何故っ……。何で、あんたは、この力が神の愛娘のものだと、分かった……?」

「何故か? フフっ」

 女性は残酷に微笑みながら、しかしその瞳を鋭いナイフのように尖らせた。刀身のほとんどがなくなったが、まだ使いものにはなる剣を持っている右手を下におろし、そしてあろうことかそれをあっさりと投げ捨てた。

 今度はシャノンが訝しむ番となった。眉間にしわを寄せ、女性の行動を見つめる。

「教えてやろう。それは――」

 刹那、女性の姿が霧のようにその場から何の前触れもなくふっと消えた。シャノンは眼前の光景が信じられず、はっと眼を見開く。

 そして、

シャノンのすぐ目の前に現れた、女性。

「――私も、〝神の愛娘〟だからだ」

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