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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
22/110

scene 21

「――ところで蓬さん。先ほど彩乃も言っていましたが、何故ここへおいでになられたのですか? しかも、彩乃が身体を悪くした今」

 ユーフェミアの問いに、蓬はユーフェミアに視線を移してふっと微笑んだ。


「ユーフェミアちゃん。それは私が魔術師兼時見(ときみ)だからだよ。だから、彩乃の病が進行すると知ってここへ駆けつけてきたんだ」


「時見、ですか」「なるほどね」「トキミ?」

 ユーフェミアはパチパチと瞬きを繰り返し、彩乃は小さく頷き、シャノンは聞きなれない単語に顔をしかめた。

「あぁ。ちなみにシャノンちゃん。時見とは、過去や未来を見ることができる人のことだよ。人名じゃないからね。まぁ、私の力は本当に小さなものだから、何年も先のことは分からない」

 蓬の言葉に、お粥を残り三口ほどまで食べた彩乃が、顔を上げる。

「じゃあ、あの日――あたしが……主様と秘宝の守り手になった日も、父上は結果が分かっていたのかい?」

「もちろん。結果を言ったら面白くないから、あえて結果を教えていなかったけどね」

 彩乃とユーフェミアはへぇと意外そうな顔をする。シャノンは三人の会話に付いていけず、頭上にハテナマークを作っていた。

「それよりも、彩乃。病の方は大丈夫なのか? 眼は痛まないか?」

「ふふん。大丈夫だよ。あたしを誰だと思ってんだい?」

 彩乃の自慢げな言葉にシャノンは一瞬、先ほど彩乃がユーフェミアに弱音を吐き涙を流していた姿を思い出し、顔を曇らせた。その感情の変化に、蓬は気付いていたがあえて彼女をそっとしておいた。

「この調子だったら、しばらくは大丈夫そうだな。では私は、このあたりで御暇(おいとま)するとしよう」

 蓬はよいしょ、と言って立ちあがる。それから三人を見まわし、「それじゃ」と声をかける。

「では。お身体には十分お気を付けください」「じゃあね」「さようなら」

 ユーフェミアは蓬が来訪してきたときと同じように、最も丁寧なお辞儀をし、彩乃はひらりと軽く手を振り、シャノンはペコリと頭を下げた。

 三人にニコニコと笑っていた蓬は、ふいに「あ」と言って笑みを消した。

「言い忘れてた。ユーフェミアちゃん。シャノンちゃん。――頑張ってね」

「はい?」「?」

 ユーフェミアはきょとんとして瞬きを繰り返し、シャノンは小首を傾げた。

 再度子供の様な笑みを浮かべた蓬はそれだけ言うと、戸の向こうへ消えてしまった。

「……どういう意味だったんだ?」

 蓬が出て行ってからしばらくの(のち)、シャノンが語尾を上げて言った。


「父上は時見だよ? きっと二人にはこれから何か(・・)があるのさ」


 彩乃はそう言うと、残りのお粥をすべて口の中へ消した。


 屋敷の門をの前まで来て、


「あ、しまった。二人に海棠(・・)のこと言い忘れてた。……ま、いっか」

 

 蓬は一瞬足を止めた。しかし、適当なことを言うとまたすぐに歩き出し、立派にそびえる門をくぐりぬけた。そこで、

「今日ハ。彩乃殿ノお父様、アルね」

 石畳にこびり付いた彩乃の血を、水が流れ出ているホースとブラシを使ってせっせと洗い落としている白胡に出会った。

 蓬は足を止め、右手を白胡の方へ上げる。

「あぁ。今日は。君は確か、白胡(はっこ)ちゃんだったね」

「ハい、アル」

「えらいねぇ。大変だろう? 血ってなかなか落ちないから」

「大変デも、コれが私ノ仕事デす、アル」

 白胡は屈託のない自然な笑みを浮かべた。

「白胡ちゃん。彩乃を、よろしく頼んだよ」

「了解しマシた、アル」

 白胡はかわいらしい笑みを浮かべたまま、蓬に言葉を返す。蓬はそれを確認するように小さく頷くと、また歩み始めた。

さて、今回最後に出てきた「海棠」という名前。どこかで聞いたことありますね~。確か、act 1のscene 1辺りで……。

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