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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
21/110

scene 20

「魔術……師?」


「そう。私は魔術を使って、この瑞穂の国で人助けをしているんだよ。だから――ほら」

 そう言うと蓬は、ぴんと右手の人差し指を突き出した。指の先にあるのは、お粥にそえられている一枚の三つ葉。シャノンがじっと三つ葉を見つめる中、蓬は突き出した指をぴんっと上に跳ねあげた。すると、

「わっ! すっ、すげぇ……」

 それまでお粥の中心にそえられていた三つ葉が、蓬の指の動きに合わせてふっと宙に浮かんだ。

「これくらいは、簡単なことさ。重量が五十キロ以内だったら何でも持ち上げられる」

 蓬はくるくると指を回して、三つ葉を彩乃の眼の前で回転させた。シャノンは三つ葉を追って眼球を回し、お粥を静かに食べている彩乃はジャマそうに顔をしかめて、回り続ける三つ葉を見る。その眼が、キラリと閃いた。

「あっ。非道(ひど)いじゃないかぁ」

 彩乃が三つ葉を、レンゲでお粥の上にはたき落したのだ。ベチャっという小さな音を立てて、三つ葉は鍋の淵に落下する。

 蓬は、遊んでいた玩具(おもちゃ)を取り上げられた子供の様な声を上げた。

「父上は子供かい? それに、今は食事中だよ。あたしは」

「分かってるって。ちょっとしたイタズラな心が生じてしまってね」

 蓬は、無邪気な子供のように笑った。その笑みによって、童顔な顔がさらに幼くなる。

「すごいですね……。瑞穂の国は魔術が発達していると耳にしたことはありますが。やっぱり、魔術って何でもできるんですか?」

「いいや。何でもできるわけじゃないよ。何でもできるなら、こうして彩乃のように苦しむ人もいなくなるだろうからね」

 彩乃はお粥から顔を上げ、揺らめく炎に照らされて顔の半分が陰になっている蓬を見る。シャノンとユーフェミアも、蓬の話を神妙に聞くようにその顔をじっと見つめていた。


「だけど、私たち魔術師は自分のできる範囲でもいいから、苦しんでいる人たちを一人でも多く助けなきゃいけないんだ。確かに昨今は、魔術を悪用するけしからん者もいる。だけど私は、魔術とは人を救うためにあるものだと、信じているよ」


「父上……」

 彩乃はふっと視線を、鍋の隅にある三つ葉に落とした。その眼が三つ葉を捉えると同時に、三つ葉の近くで煌めく一本の糸の様なものを見つけた。彩乃は眉を寄せながら不自然に見えないような動きで、そっと糸の周りのお粥と三つ葉をかきわける。キラキラと光に反射する糸が姿を現し、それがシャノンの栗色の髪の毛であることに彩乃は気がついた。が、髪の毛が入っていることに気付いたときのシャノンの態度を彩乃は頭の中で想像し、結局このことをシャノンには告げないことにした。彩乃はそっと三つ葉を指でつまむフリをして、すっと髪の毛をお粥の中から抜くと三つ葉とともに、木のプレートの上に置いた。それから目線だけを上げてシャノンを一瞥し、その視線が自分の方に向いていないことを確認した。

「じゃ。次の説明。何故シャノンちゃんが、一目で女の子とを分かって、アシュリー人だということまで分かったのか。これはね、とても簡単なことさ。――人にはね〝気〟というものの流れがあるんだ。その流れは、年齢、性別、人種、種族、人格、体格、感情、体調なんかで変わる。魔術師は、その気の流れを読む力を取得しているんだよ。だから、一目で分かったのさ」

「……それは、簡単なことなのですか?」

「あぁ。魔術師にとってはね」

 シャノンはいまいち分からないという風に、眉をひそめて首をかしげる。そんなシャノンに、


「君のそのヒカリのチカラだって、体力を使ったり暴走したりするとはいえ、君にとって操ることは簡単だろ? それと一緒だよ」


 蓬はニヤリとして言って見せた。はっと、シャノンは眼を見開く。今も自分の周りをうろついているヒカリが、ふと鮮明に視界で踊り出したような感覚に襲われた。

「……それも、気というやつで分かるんですか?」

「うん。ま、そのヒカリ自体は操れないし、見えないけどね。〝神の愛娘〟は独特の気を放っているから、とても分かりやすい」

 シャノンはニコニコと自分へ笑みを送ってくる蓬を見つめる。果てしなく闇が続いているような深い漆黒の瞳からは、全く感情が読めない。それは、相手に感情を読ませることを拒んでいるような瞳だった。

今回はちょっと短いですっ。

でも、下書きの方ではこの件の話を書き終えましたよっ!!

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