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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
18/110

scene 17

     *     *     *



「シャノン殿、火ヲもう少シ弱めル、アルよ!」

「えっ? わわっ」

 シャノンは慌ててガスコンロの火を調節した。が、青い火は余計に大きくなる。

「それハ強めル方ダ、アル! 逆、アルよ」

「マジッ!?」

 シャノンはわたわたとしながら先ほどとは逆にひねる。とたんに火はふっと、中へすぼまるようにして小さくなった。

 綺麗な袴に着替え、白い割烹着を纏っているシャノンは、ふぅっと(ひたい)を拭う。シャノンとお揃いの割烹着を着た白胡は、シャノンを心配げに見上げる。

「シャノン殿。大丈夫、アルか?」

「えっ? う、うん。ボクは大丈夫さ。これも、早く彩乃に元気になってもらうためだ。彩乃だって、ボクが怪我を回復している間は、こうやって白胡を手伝っていたんだろ?」

「ソウ、アルが……。彩乃殿は、料理ノ経験がアッたカらできタ、アルよ?」

「うっ……」

 シャノンはぎくりと顔をひきつらせ、ひょいっと白胡から視線をそらした。白胡はじいっとシャノンを下から見上げる。

「失礼でスガ、シャノン殿ハ料理をシタこトがある、アルか?」

「あっ、あるに決まってんだろっ……!」

「デは、何故お(かゆ)もマトもニ作レナい、アルか?」

「それは……つっ、作ったことがないからだよ。それにボクの国の主食は米じゃなくてパンだしな」

 シャノンはどうだ! と言わんばかりの顔で、自分の胸の辺りまでしか背がない白胡を見た。碧眼と碧眼がぶつかる。白胡はその作り物の碧眼に、疑うような光を灯してシャノンを見ていたが、ふっとその光を緩ませた。

「素直ジャない、アルね。でも、彩乃殿ノたメに、慣れナイ料理をスル心は良イと思ウ、アルよ」

 白胡の言葉に、シャノンは耳と首まで真っ赤にさせて「うっ、うるせぇよッ!」とそっぽを向いた。

「クスクスッ。あ――。でキた、アルよ」

 唐突に白胡が言った言葉に、シャノンは眉を寄せる。

「は?」

「鍋のフタをトル、アルよ」

「え? あ、あぁ」

 シャノンは慌ててミトンに手を通し、淡い灰色をした石でできている小さな鍋のふたを取った。

 ほわん、と鍋から一気に湯気が溢れだす。その中から現れた、銀に煌めくお粥。

「うぉっ! ちゃんとできてンじゃん」

「はイ。私ノ中にハ、タイマーが入ってル、アル。ソのタイマーで、時間ヲ測っテイたアル」

「へぇ。そうなのか……」

「ハい、アル」

 白胡はすらっとした手を伸ばし、カチンと小さな音を立てて火を消した。


「シャノン殿、クレぐレも落トシテはイケない、アルよ」

「分かってるって。ボクはそこまで慌てん坊じゃないよ」

「でハ、シャノン殿ニ任セた、アル」

 白胡は、ほかほかと湯気を上げるお粥とレンゲを置いた木のプレートを、シャノンの方へ差し出す。シャノンはプレートの横についた小さな取っ手に手をかけて、そっと持ち上げた。規則的に上がっていた湯気が揺れ、ふわりと小さく不規則な動きをする。

「ンじゃ。さっそく持って行くから」

「気をツケる、アルよ」

「はいはーい」

 シャノンは台所を出、薄暗い廊下へと足を踏み出した。

 この廊下をまっすぐ行き、突き当りの二つのわかれ道を右に曲がった三つ目の部屋が、彩乃の部屋だ。

 シャノンは手に全神経を集中させて、ゆっくりと廊下を歩む。ギシ、ギシと小さな音が足元から上がる。

 左右が対になってある部屋を六つ行ったところに、左右に分かれる道はあった。廊下の正面には、太陽の光を屋敷の中に流し込む、三日月形の小さな出窓の様なものがあった。窓の前には、シンプルな白い花瓶に一本の桜の木がいけられている。桜の花弁は、太陽の光を浴びて透けて見える。

「えっと……。ここを、右に曲がった三つ目の部屋だな」

 シャノンは慎重に爪先を右へ向け、すり足気味に歩く。

 シャノンが足をすりながら進む音だけが、静かに響く。ちらりとお粥から視線を上げ、三つ目の部屋を確認した。その時、

「もう、イヤなんですっ!!」

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