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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 1 春の宵、桜の都
17/110

scene 16

 ユーフェミアが、ふっと口をつぐむ。シャノンは視線をあちこちに巡らせて、震える唇を開いた。

「信じられねぇよ……。だって、いっつも元気で、軽口ばっかたたき合って、フザケまくって、一回、広間の障子まで、破っちまって……。白胡にはめちゃくちゃ二人で世話になったし、ボクが早く回復するように……彩乃、気を使ってくれてたし……。今日だって、木刀で稽古をしようって言い出したの、彩乃だったし……。何でっ……。何で、だって……。だって……ッ!」

 シャノンはぎゅっと眼を閉じ、両手で顔を覆った。その蒼い瞳からはらりと、透明な熱い雫がこぼれ落ちる。はらはらはらはらと、涙は次から次へとこぼれ落ち、それを必死になってシャノンは拭う。拭う度に頬は濡れ、シャノンの手から逃れた雫は木の床に黒く丸い跡をつける。シャノンの口からうめき声の様な嗚咽(おえつ)が漏れ、鼻水を(すす)る音がやけに大きく部屋に響く。

「シャノン――」

 ユーフェミアが頭を上げ、肩を震わせているシャノンの頭にそっと手を伸ばそうとしたときだった。

布団(・・)ふっとん(・・・・)ダ! アルよ」

 幼い声が、部屋に大きく反響した。

 ユーフェミアの手はぴくりと動きを止め、シャノンは「えっ?」という風に顔から手を離した。

 シンとした沈黙が降り注ぐ。大声の後の沈黙のため、余計にそれは静かに感じられた。

 シャノンの涙はあまりの驚きに止まり、ポカンとした顔でユーフェミアとシャノンはくだらないシャレを言った、クリーム色の髪を持つアンドロイドを見つめる。

ダジャレ(・・・・)を言ウノはダレジャ(・・・・)、アル。そレは、私、アルね」

 白子はニコニコと笑って、自分を見つめる二人をとても楽しそうに見る。

「……あ、の。白胡……? 故障、でしょうか……」

 ユーフェミアは遠慮がちに戸惑ったような視線を向けて白胡の名を呼ぶ。すると白胡は、すねたようにしょぼんと口を尖らせた。

「面白クなカッタ、アルか? 私、二人にハ笑顔にナッテほシかっタ、アルよ」

 白胡の言葉に、ユーフェミアはぱちくりと大きく瞬きをし、シャノンははっと息をのんだ。

 僅かな静寂の後、

「プッ。ハハハハハッ! フハハハハッ! ププッ!」

 頬を濡らしたまま、ふいにシャノンが腰を折り曲げて大声で笑い出した。そのあまりの声の大きさに、びくりとユーフェミアは身体を震わせる。白胡はにこりと笑ったまま、愉快に笑うシャノンを見つめていた。

「クククッ。そうだよな、白胡。誰も、泣き顔なんて見たくないよな。うん。面白かったよ」

「ソう、アルか? そレは良カッた、アル」

 白胡はその美しい髪を揺らしながら、首を小さく傾けて笑った。そんな姿を見て、ユーフェミアも綺麗な微笑みを浮かべた。

 たゆとう金髪がふわりと揺れ、ふいにユーフェミアの身体が白胡の方へ傾く。

 次の瞬間。ユーフェミアは白胡の小さな身体を強く、そしてとても愛おしそうに抱きしめていた。それは、血の通わない冷たい身体だったが、その時ユーフェミアは確かに白胡の身体の中に温もりを感じていた。

「白胡……。ありがとう、ございます」

「それホドでモないデス、アルよ」

 白胡はさらに楽しそうな、優しそうな笑みを口元に広げた。

 橙色の炎が照らす中。三つの黒い影は壁で揺らめき、その中の二つは重なり合っていた。

 白胡を大切そうに抱くユーフェミアを見ながら、シャノンはそっと微笑む。が――

 その手のひらは白くなるほど握りしめられ、小刻みに震えていた。

最近は一話が短くて本当にすいません……orz

でっ、でも、話の盛り上がりはまだまだ先ですよ~!!


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