scene 13
「――っ!?」
シャノンの双眸が、大きく見開かれた。
真っ赤な花弁はボタボタと、桜の薄紅と石畳を真紅に染め上げてゆく。
「っつ……。う、あ……。はぁ……。はぁ……。くっ……」
彩乃の左目からこぼれ落ちる赤は、彩乃とシャノンにも飛び散り、二人をも赤くしていく。ツンとした生臭い鉄の匂いがシャノンの鼻孔を刺激した。
「――あ。これ……花、じゃない。……血、だ」
シャノンは呆然としたように、彩乃の眼からあふれる赤――どろりとした生温かい鮮血を、見つめ続ける。
赤い血だまりは彩乃を中心に、どんどん広がってゆく。地面を彩るピンクの花弁が赤に染められ、石畳が染められ、二人が染められ――
「あぁぁぁぁぁああぁぁ――!!」
はっと、シャノンは我に返った。
彩乃は血の海に倒れこみ、喘ぐような荒い呼吸を繰り返す。
「彩乃……。彩乃! しっかりしろ!」
シャノンは血の海に両膝をつけた。地面に溜まっている血が飛び散る。シャノンは両手で彩乃の身体を引き寄せ、膝に抱きかかえた。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……。はぁ……。シャ、ノン……」
「彩乃! 意識はあるな? 大丈夫か? あ、左、目は……どうなったんだ? 痛むのか? 呼吸は苦しいか?」
「虫、が……」
「えっ? 何だよ?」
「虫が、あたしの身体を……内側から、喰いあさって、る……」
「虫……? お前、何言って――っ!!」
その瞬間シャノンは、彩乃の抑えている指の隙間から見てしまった。あまりの驚きと衝撃に、喉が一瞬で渇き、押しつぶされてしまったかのように、声が出なくなってしまった。
「シャ、ノン……?」
「……あ、やの……。お前……、目が、左目が……」
「……目?」
彩乃はそっと手のひらを、左目から離した。太陽の光に、血を流していた目がさらされる。
彩乃の左目からは、もう血は溢れていなかった。が――
左の瞳が、まるで血の色を写し取ったかのように真っ赤になっていたのだ。
左頬にこびり付いた血の跡はまるで、彩乃が赤い涙を流したかの様に見えた。
「――彩乃!」
その時、ふいにシャノンのものでも、もちろん彩乃のものでもない大声が上がった。二人の視線が、自然と声の方向――屋敷の門の方――へ移動する。
そこには、蜜色の髪をおろし、浅葱色の紬を纏った顔面蒼白のユーフェミアが立っていた。
「主、様……」
「彩乃! どうされたのですか!? 何故、このように……大量の、血が……」
ふらふらと、不安定な足取りでユーフェミアが彩乃とシャノンの方へ歩み寄る。が、その足がはたと止まり、金色の双眸が大きく瞠られた。
「彩乃……。その目は、まさか……」
「主様……。〝寄生虫〟が、動き、出し、た、ようです――」
その言葉を最後に、ふっと彩乃は意識を手放した。シャノンの膝に、ずしりと重みが増す。
「っ……。彩乃? おい!」
シャノンは瞳を閉じてしまった彩乃の身体を、小さくゆする。が、その赤と黒の奇妙な目が姿を現すことはなかった。
今日は投稿が遅くて申し訳ないですっっ!!
しかも何気に今回は短いような……。