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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 3 夢幻の願い、偽りの微笑
110/110

scene 18

更新サボって、本当にごめんなさい;

「さて、そろそろ行くわよ。老様も双子も待ってるわ」

「あぁ、行こう」

 ニチカの促しの言葉に、ナユタは頷く。強く握りしめた後に手を離したミユウや、先住民たちの視線を受けながら、ニチカとナユタはさらに奥へと続く通路を進んでいく。

「……あの、ニチカさん」

「うん? 何かしら」

 ナユタは小さくなった後方の人々を振り返りながら、遠慮がちに問う。

「オレが一体これからどんなことをしなければならないのか、ニチカさんは知らないか? ……その、あの双子に聞いても、教えてくれなかったから。ミユウって子にも助けてほしいって言われたからつい頷いたけど、実際その約束を果たせるのか、今のオレには分からない訳で……」

 重苦しく神妙なナユタの言葉に、ニチカは視線を落とす。

「……そうね。今の君は、少し複雑な心境よね。けれど、君がこれから科せられる出来事の詳細を、私の口から告げることはできないわ」

「――何故?」

 ナユタは一瞬息をのみ、やがてゆっくりと吐き出す。前方を行くニチカは、ナユタを振り返ることなく、強い意志の籠った声音で言葉を紡ぐ。

「すべての事実を語るのは老様の役目。それに、本当に詳しいことを知っているのは、老様だけだから。ごめんなさいね」

「……そうか。いや、いいんだ。ニチカさんが責任を感じるようなことじゃないから」

 ナユタは眼前で不安定に揺れるニチカの背を見つめ、小さく頷く。

 会話が途切れ、二人は無言で歩を進める。ニチカの簡素な履き物と、ナユタが履いているショートブーツが交互に音を叩き、石畳を敷き詰められた通路にこだまする。

 足音だけが奇妙なほど大きく響く中、ナユタは口を閉ざしたまま、気まずそうにニチカの背後を歩く。ニチカもナユタを振り向くことなく、足音だけでナユタが後ろからついてきていることを認識していた。

「――ねぇ、メシア様」

 不意に、ニチカが足を止める。彼女についていたナユタも自然、歩くことを一旦止める。

「どうしたんだ?」

「今のうちに、私からもう一度、真剣にお願いしておきたいの」

 ニチカは振り返り、五歩ほど距離を空けて佇むナユタを見つめる。負の感情を具現化したような紫の瞳は、何も語らないままニチカを静かに見返す。

「メシア様――いいえ、ナユタ。私たちはこれから、君にとても辛い要求をすることになるでしょう。それは単なるエゴにすぎないわ。君という救世主に……一人の子供に、困難を押し付け、この環境から助かろうとしている。呆れても、構わない。救世主の伝説に縋っている私たちを、愚かだと卑下しても構わない。嫌なら嫌と、はっきり断ってくれて構わない。老様や他の住民たちだって、たとえ君が申し出を断っても、誰一人責めないと思うわ。だって、すべての決断は、君ができることだから」

 ニチカの今までにない真剣な眼差しに、ナユタは束の間息をすることさえ忘れていた。彼女の言葉を聞き終え、ナユタは肺に空気を満たすと、ため息のように息を吐き出した。

「……ニチカさんが、そこまで考えてくれてるとは、正直思わなかった。能天気でマイペースな人かと思ってたけど、結構思いやりがあるんだな」

 ナユタの、悲しげながらもからかうような口調に、ニチカはくすりと笑い声を洩らす。

「それは褒められてるのかしら? そりゃ、本音を言えば君に救ってもらいたいけれど、無茶はしないでほしいの。私たちが頼んでいるのは、家族殺しだもの」

「――それは、いいんだ。あんな奴、家族だなんて思っていない。……多分、お互いに」

 ナユタの低い声に、ニチカは表情から笑みを失う。が、すぐに気を取り戻したように、息をそっと吐き出した。

「……私が言えたことではないかもしれないけど、命は大切にするものよ。殺しを肯定することは、どんな理由があれど、決して許されることではないから」

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