表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 3 夢幻の願い、偽りの微笑
108/110

scene 16

 階下には、やはり石造りの真っ暗な通路が続く。

 階段を下りきったナユタは、ニチカの隣へ並んだ。同時に、ニチカは左の手の平を自分の口の前へと持っていき、手の上に載せられた物をそっと吹き飛ばすように息を吐く。すると、

「わっ。すごい……」

 闇に閉ざされていた廊下に火が灯った。二人の正面に広がる洞窟の様な通路にも、階段と同じく壁に松明が掲げられており、その松明に次々と火が灯っていったのだ。

「これは、ニチカさんの能力、なのか?」

「ええ、もちろんそうよ」

 ニチカは小柄なナユタを見下ろしながら、右手の親指と中指をはじき、音を鳴らす。すると、二人の背後で階段を照らしていた松明が、瞬時に消え去った。

「へぇ……。ニチカさんは、火を操れるのか」

「そうよ。私は思いのままに火を生み出し、同じく消すことが出来る。まぁ、操れるのは私が点けたものだけなんだけどね。私たち先住民は、全員能力者だって、双子のアズリとアズハから聞かなかった?」

「え? ……あぁ、あの二人はアズリとアズハっていうのか」

 ナユタの呟きに、ニチカは目を丸くする。

「驚いた。あの子たち、名前も名乗ってなかったのね。全く……。男の子の方がアズハ、女の子の方がアズリよ。本当に躾がなっていないわ」

「あっ、けど、二人ともちゃんと敬語使えてたし、礼儀正しかったし、全然躾がなってないことは無いと思うんだけど」

 ナユタは二人の弁明をするように、慌てて言葉を紡ぐ。猛烈な勢いで両手を振るナユタを見ながら、ニチカはくすりと笑い声を漏らした。

「自分の発言のせいであの子たちが責められてると思った?」

「え? あ、まぁ……」

「優しいのね。さすがメシア様」

 少しおどけたようにニチカは笑う。そんな彼女につられるようにして、ナユタも少しだけ口元を緩めた。が、すぐに口の端を結ぶ。

「けど……、あの二人には少し感情が足りないような気がする。最初、先住民の人は皆あんな風なのかと思ってたけど、ニチカさんは全然違うよな」

 神妙なナユタの表情に対し、ニチカは小さく吹きだす。

「皆アズハとアズリみたいだったら怖すぎるわよ。違うわ。……あの子たちはね、ちょっと、訳ありでね」

「その訳、聞いても大丈夫か?」

 先程まで浮かべていた灯のように明るい表情を陰らせ、ニチカは憂いの笑みを湛える。瞳の闇を払拭しきれないまま、彼女は遠い目で虚空を見つめる。

「ええ。……率直に言うと、あの子たちには両親がいないのよ」

 ニチカの口から零れた言葉に、ナユタは目を見開き言葉を失う。その脳裏に、昔日の自分の姿が鮮やかに浮かび上がった。

「だから、私たちの住むこの地下世界の住民たちに、二人は育てられたの。もちろん、私もあの子たちを育てた中の一人よ」

 俯き、乾いた声で語るニチカは一旦言葉を止め、息を吸い込む。

 ナユタは苦しげな眼差しで遠慮がちに彼女を見上げ、静かに言葉の続きを待つ。

「……二人の両親は、あの子たちを産んですぐ、とある事故に、巻き込まれてしまったの」

「事故……?」

「そう。約二十人が巻き込まれ、そして全員が消息を眩ませた土砂崩れよ。ここは地下で上は瓦礫だらけだから、壁が崩れてしまったら一気に土砂が流れ落ちてくるの。それに巻き込まれて、二人の両親は……」

 ニチカは言葉を喉に詰まらせ、それ以上は言えないと示唆するように、瞼を伏せて力なく首を振る。ナユタは気付かぬ間に止めていた息をふっと吐き出し、

「そう、だったのか」

 俯くと、それ以上は何も言わなかった。

 二人の足音だけが、冷たく硬質な音を響かせ沈黙の邪魔をする。

「――ごめんね。空気悪くなるような話しちゃって」

 静寂に包まれた空気に波紋を広げたニチカは、ナユタへ向けて申し訳なさそうに笑みを浮かべる。彼女の表情にナユタは慌てて首を振り、言葉を紡ぐ。

「あ、いや、いいんだ。話振ったのはオレだし」

「そう。やっぱり、メシア様は優しいわ。本当に――あなたにこんな役目を負わせるのは、辛いわね」

 低く微かなニチカの声に、ナユタは小首を傾げる。

「うん? 何か言ったか?」

「……いえ、何でもないの。さあ、老様の元へ急ぎましょう」

 陰鬱な暗い瞳でニチカはコケティッシュな笑みをそっと浮かべ、ナユタを促した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ