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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 3 夢幻の願い、偽りの微笑
107/110

scene 15

     *     *     *


「到着です」「着きました」

 瓦礫の海の中、幼い二人に導かれてたどり着いた場所は、半ば瓦礫に埋もれている小さな穴の前だった。

「ここ、なのか?」

 二人の案内通りに歩いてきたナユタは、瓦礫をくり抜いたような暗い穴を指し示す。凹凸が多く歩きづらい道のりであったために、ナユタの息は上がっていた。反対に、少年少女は息一つ、表情一つ変えていない。一人でアズリとアズハについてきたナユタは、僅かに赤く色づいた顔で二人の子供と穴を見つめる。

 部外者を通すわけにはいかないと二人は頑なに首を横に振り、リスカとは先程の場所で別れている。ナユタを一人で行かせることは出来ない、自分もついて行くとしばらくの間言い張ったリスカだったが、アズリとアズハの威圧的ともとれる口調と表情に折れるしかなかった。

 穴の前に立つ二人はこくりと首だけを下げ、

「穴からお入りください、我らは下で待っています」「では、お先に失礼します」

 ナユタを同時に一瞥すると、唐突に姿を消した。

「なっ!?」

 ナユタは目を丸くする。まるで霧のように、二人は跡形もなく消えてしまった。

「下で待ってるって言ってたが……」

 ナユタはまじまじと穴を見つめながら、眉をひそめる。が、とりあえずといった風に身をかがめ、穴をくぐる。細身のナユタが通るのさえギリギリのサイズだ。

 闇に沈んだ穴の中へと身を投じる。と思いきや、穴の中はさきほどと打って変わって明るく、両脇の石壁に火が灯されていた。

 ナユタは再び驚きに目を見開き、口をぽかんと開ける。中の構造をよく観察してみると、ナユタが今立っているのは穴より横幅がやや広くなった下りの階段で、その両側の壁にはいくつもの松明が掲げられていた。ナユタは赤々と踊る美しい焔に目を奪われ、呆然と動きを止める。

「いつの間に点いたんだろう……。どんな仕掛けになってるんだ?」

「仕掛けも何も、それは私の力よ」

 周りの炎を見渡していたナユタの問いに対して、女性の声が返って来る。

 はっと視線を階下へ下げたナユタの視線の先。そこには、石で造られた頑丈な階段に腰掛け、ナユタを仰ぐ一人の女性がいた。女性はアズリとアズハと同じく、黒髪金眼を持っている。

「こんにちは、メシア様。私はあなたの案内役を務めるニチカよ」

「あ、こんにちは。オレはナユタ、といいます」

 ナユタはやや表情を固くし、屈めていた背筋を伸ばす。穴とは比べ物にならないほど中は広く、最も上の段で立っても頭をぶつけない程度の高さはあった。

 緊張の面持ちをしたナユタを見、ニチカと名乗った女性は唐突に吹きだすと、けらけら笑い出した。

「敬語なんて使わないで。それから、肩の力を抜いて頂戴」

「え、あ、すみません。年上の人だと、つい……」

「良い心がけだけれど、私には気楽に話してくれて大丈夫よ。大切な救世主様なんだもの。私が敬語を使わなきゃいけないくらいだわ」

 ふふふと肩を揺すりながら、太陽のように美しい瞳を輝かせて楽しげにニチカは笑う。

「そう、なんです……なんだ」

 ナユタはやや身体の力を抜き、大きく息をつく。微笑みを浮かべたニチカは立ち上がり、上の段に立つナユタを手招く。

「なかなか可愛いメシア様ね。私、気に入っちゃった」

「あ、え……うん。ありが、とう?」

 曖昧な答えと共に語尾を上げ、ナユタは困ったように笑う。

「さて、ついていらっしゃい。老様のもとへ案内するわ」

「はいっ」

 ナユタは慌てて、しかし一段一段踏み外さないように気をつけながら階段を下りる。

 決意を秘めたナユタの瞳は松明の炎に閃き、神秘的に、しかし強く輝いていた。

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