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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 3 夢幻の願い、偽りの微笑
106/110

scene 14

「――!!」

「そんなっ……!」

 自分の方が遥かに長く生きているように見える、幼い者の口から語られたことに対し、ナユタは目を瞠り、リスカは息をのむ。

 二人の反応などお構いなしに、アズハとアズリは話を続ける。

「我らは遠い昔、奇妙な力を持つ者として忌み嫌われ、能力のない人間から迫害を受けたのです」

「私たちは己の力を駆使し、この空間に雲と疑似した地を創り、空に似た天を創造し、そこへ太陽の様な光を浮かばせ、この世界を生みだしたのです」

 相変わらず無表情ではあるが、二人は確実に言葉数を増やしていた。

 衝撃の告白に、ナユタもリスカもただ呆然と話に耳を傾ける。

「やがて、この世界に住む我々を殲滅すべく、人間が乗り込んできたのです」

「ほとんどの者は殺されました」

「しかし、一部の者が襲撃を耐え、生き残りました」

「残念ながら、その中でソラト王様は命を落とされました」

「生き残りの中で、ある者は奴隷として地上へ連れて行かれ、ある者は人間が地上へ帰るまで目につかぬようひっそりと暮らしていました」

「しかしある時、先住民である一人の女が人間の男に恋をし、二人は結ばれてしまったのです」

「女は地上の人間の子を孕み、やがて純粋な我らの血を受け継ぐ者は、少数になってしまいました」

「あなた方は地上の人間とこの雲海に住む人間の混血です」

「我ら先住民の血を濃く受け継ぐ者は金の髪と黒の瞳を持たずとも、不可思議な力を使うことが出来ます」

「また、地上へ連れて行かれた人々も、奴隷を禁ずる法の制定や発展とともに自由の身となり、地上で普通の暮らしを送り始めました」

「地にすむ我ら一族の者の血をひく能力者のことを、地上の人間は〝神の愛娘〟と呼んでいるそうです」

 二人の長い話に区切りがつく。聞き終え、長く息を吐き出したナユタは、嘲笑とともに吐き捨てるように呟く。

「迫害をしたっていうのに、今じゃ神扱いかよ……」

 ナユタは複雑な感情に眉をひそめ、リスカは俯きながら悲しげに首を振る。

 二人の様子を眺めつつ、アズハとアズリは頭を下げる。

「どうか、我らを守ってください」

「あなた方の住むフェイランティス王国の王が現在の方になってから、それまで支給されていた食料も届かなくなり、今では子供たちが食物を育て、それを糧にどうにか生きている状態なのです」

「このままでは、我らは全滅してしまいます」

「今のフェイランティスの王を、どうにかしていただきたいのです」

「――なん、だと?」

 自分の兄である王の話を聞き、ナユタの様子が豹変する。怒りと憎しみと悲しみと心の闇がない交ぜになった色に瞳は染まり、どこを睨むでもなく遠くへナユタは鋭い視線を投げる。

 不安げなリスカが声をかけるよりも早く、ナユタは黒髪金眼の少年少女に大きく頷いていた。

「その願い、オレが引き受けよう。その、老様とかいう人の元へオレを連れて行ってくれ」

 二人の子は、ナユタの言葉にさして驚くでも喜ぶでもなく、無表情のまま再度頭を下げる。が先程に比べ、数ミリほどその瞼は見開かれていた。しかし、その状況を歓迎しない人物が一人。

「ちょ、ちょっと待ってナユタ! どんな危険があるのか分からないのに承知していいの?」

 ナユタの言葉に、不安のどん底へ突き落とされたような感覚に捉われたリスカは、焦燥に声を荒げる。

「いいんだよ、リスカ。オレは――やっと、復讐が遂げられるかもしれないんだ。今の王が死ねば、この子たちの願いも叶う!」

 ナユタは言い、そして――とても、これ以上ないほど楽しげに、あるいは愉快そうに、あるいは滑稽に、高く高く笑い声を虚空へと響かせた。

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