scene 13
リスカの思いがけない言葉に、ナユタは双眸を見開き驚愕を露わにし、まさかと言わんばかりに首を振る。
「ありえねぇだろ。だって、この世界の先住民は――百二十年前の戦乱の中でほぼ死んで、その後、完全に全滅したはずだろ?」
「いいえ。違うのです」
「私たちは、生きています」
黒髪金眼の二人の子供、アズハとアズリはナユタの言葉を静かに否定する。その反応に、ナユタの困惑はさらに深くなる。
訝しげに眉をひそめながら、ナユタは二人に問いかける。
「じゃあ、この世界の先住民が生きていて、お前らもその生き残りで……何故、オレに助けを求める?」
「伝説だからです」
「救世主が現れるという」
「……は? 伝説?」
間の抜けたナユタの声に、アズハとアズリは無表情のまま同時に首肯する。
「私たちを救うのは」
「ソラト王に瓜二つの、紫の瞳の子」
「……はい? えっと……」
ナユタは理解しがたいといった様子で二人を交互に見つめる。
「伝説にそう記されているのです」
「あなたはソラト王に瓜二つなのです」
「…………。はい? え? ちょっと待て。オレとソラト王が似てる? それで、オレに救世主になれと? 意味分かんねぇんだけど?」
未だに事情を理解できずにいるナユタは、混乱する頭を抱え、眉をひそめる。そんなナユタの困惑を目の当たりにしてなお、まるでその表情しか知らないといわんばかりに、二人の少年と少女の顔は無表情のままだ。
「ついてきてください」
「そうしていただければ、詳しい説明をします」
「……って、言われてもな」
ナユタは困惑顔のまま、背後に隠れるように立っているリスカを肩越しに振り返る。リスカはリスカで何やら深く考え込んでいるようで、眉間に小さなしわが刻まれ、日本の細い腕が胸の下で組まれていた。
ナユタは小さな吐息やうめき声を漏らしつつ、逡巡し、やがて自分を無感情に見つめる二人の瞳をじっと交互に見詰める。
「とりあえず、オレに何をしてほしいのか、概要だけでもいいから教えてくれないか? お前たちは、何故助けを求めるのか、何から救ってほしいのか、そもそも伝説って何だ?」
ナユタの問いに対し、アズハとアズリは二人同時にお互いの顔を一瞬見合わせた。やがてナユタに向き直ると、再び交互に口を開き始める。
「私たちは、一族絶滅の危機に晒されています」
「それだけは、ダメなのです」
「私たちの歴史が」
「我らの伝説が」
「私たちの言い伝えが」
「途切れることは、あってはいけません」
最後の言葉を二人で共に言い、少年と少女は言葉を止める。
「……ということは?」
ナユタはいまいちわからず、再び問う。
「そもそも私たちが住む」
「人間の住む下界から切り離された空間の世界――」
「人間たちは〝天空の理想郷〟と呼ぶこの世界の祖先は」
「もともと、特別な存在などではなく」
「人間なのです」