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砂漠の薔薇  作者: 望月満
act 3 夢幻の願い、偽りの微笑
105/110

scene 13

 リスカの思いがけない言葉に、ナユタは双眸を見開き驚愕を露わにし、まさかと言わんばかりに首を振る。

「ありえねぇだろ。だって、この世界の先住民は――百二十年前の戦乱の中でほぼ死んで、その後、完全に全滅したはずだろ?」

「いいえ。違うのです」

「私たちは、生きています」

 黒髪金眼の二人の子供、アズハとアズリはナユタの言葉を静かに否定する。その反応に、ナユタの困惑はさらに深くなる。

 訝しげに眉をひそめながら、ナユタは二人に問いかける。

「じゃあ、この世界の先住民が生きていて、お前らもその生き残りで……何故、オレに助けを求める?」

「伝説だからです」

救世主メシアが現れるという」

「……は? 伝説?」

 間の抜けたナユタの声に、アズハとアズリは無表情のまま同時に首肯する。

「私たちを救うのは」

「ソラト王に瓜二つの、紫の瞳の子」

「……はい? えっと……」

 ナユタは理解しがたいといった様子で二人を交互に見つめる。

「伝説にそう記されているのです」

「あなたはソラト王に瓜二つなのです」

「…………。はい? え? ちょっと待て。オレとソラト王が似てる? それで、オレに救世主になれと? 意味分かんねぇんだけど?」

 未だに事情を理解できずにいるナユタは、混乱する頭を抱え、眉をひそめる。そんなナユタの困惑を目の当たりにしてなお、まるでその表情しか知らないといわんばかりに、二人の少年と少女の顔は無表情のままだ。

「ついてきてください」

「そうしていただければ、詳しい説明をします」

「……って、言われてもな」

 ナユタは困惑顔のまま、背後に隠れるように立っているリスカを肩越しに振り返る。リスカはリスカで何やら深く考え込んでいるようで、眉間に小さなしわが刻まれ、日本の細い腕が胸の下で組まれていた。

 ナユタは小さな吐息やうめき声を漏らしつつ、逡巡し、やがて自分を無感情に見つめる二人の瞳をじっと交互に見詰める。

「とりあえず、オレに何をしてほしいのか、概要だけでもいいから教えてくれないか? お前たちは、何故助けを求めるのか、何から救ってほしいのか、そもそも伝説って何だ?」

 ナユタの問いに対し、アズハとアズリは二人同時にお互いの顔を一瞬見合わせた。やがてナユタに向き直ると、再び交互に口を開き始める。

「私たちは、一族絶滅の危機に晒されています」

「それだけは、ダメなのです」

「私たちの歴史が」

「我らの伝説が」

「私たちの言い伝えが」

「途切れることは、あってはいけません」

 最後の言葉を二人で共に言い、少年と少女は言葉を止める。

「……ということは?」

 ナユタはいまいちわからず、再び問う。

「そもそも私たちが住む」

「人間の住む下界から切り離された空間の世界――」

「人間たちは〝天空の理想郷(ユートピア)〟と呼ぶこの世界の祖先は」

「もともと、特別な存在などではなく」

「人間なのです」

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