scene 12
「誰だっ!」
ナユタは突然後方から聞こえた声に、驚愕の表情を見せながらも俊敏な動きで振り返る。言葉を遮られたリスカもナユタに続き、恐る恐る振り向く。二人の見つめる先には、
「老様がお呼びです」
「一緒に来てください」
およそ感情というものが感じられない顔をした、黒髪金眼のそっくりな顔の作りをした少年と少女が並んで立っていた。
「……あんたらは、誰だ? 何を言ってる?」
ナユタは子供だからと言って警戒を解いたりはせず、淡々と冷静に問う。眉をひそめたナユタの眼差しを受けた二人は、お互いに顔を見合わせる。
「間違いないな」
「間違いないわ」
二人は訝しげに自分たちを見つめるナユタとリスカの元へ、とたとたと駆けるよる。その警戒心の欠片も見られない行動にナユタは戸惑い、僅かに退く。
「なっ、だから、何なんだよ?」
「えっ? えっ?」
状況が把握できず、疑問の声を漏らすリスカは、ナユタの前へと寄って来た二人の子供を眉をひそめて見つめる。
「老様がお待ちです、メシア様」
「共に来て下さい、メシア様」
黒髪金眼の少年と少女――先程、ナユタとリスカを屋根の上から見ていたアズハとアズリは、ゆるりとナユタへと手を伸ばした。
「……は? 救世主って、オレ?」
「はい」「はい」
二人の声が綺麗に重なり、二対の太陽がナユタをまっすぐに捉える。ナユタは奥底に闇を宿した神秘的な紫の瞳を疑問と不安に揺らめかせる。
思わぬ展開に、リスカはナユタを心配げに見つめる。長年ナユタと共に過ごしてきたリスカは、瞳の闇が深くなることを瞬時に感じることができた。同時に、彼女自身の薄紅の瞳も、陰りを見せていた。
「私たちを救ってほしいのです」
「我らの繁栄の手助けをしていただきたいのです」
アズリとアズハは平坦な口調を全く変えず願いを述べ、まっすぐにナユタを見つめる。
「助けるって……このオレに、何ができるってんだ?」
ナユタは困り果てたように、自分の無力さを噛み締めるように、眉をひそめる。自分を見上げる四つの瞳には、懇願するような感情も読み取れなかった。
「もし助けて下さるならば、私たちについてきて下さい」
「老様の元へ、お連れします」
「質問は無視かよ……。っていうか、その“ろうさま”って誰だよ?」
ナユタの頭の中は困惑と疑問ばかりに埋めつされ、そしてその疑問に答えられるのは目の前に立つ少年と少女のみ。二人は視線をそらさず、ナユタの瞳だけを見つめる。
「老様は、我らの長です」
「老様は、ソラト王様の忠実なる家臣であられた方です」
ナユタは驚愕と疑念に、眉間のしわをさらに深くする。
「ちょっと待て。ソラト王の家臣って……ソラト王が死んだのは百二十年前だろ? 空の民の平均寿命はおよそ六十三歳だ。ってことは、その老様ってのは寿命の約二倍も生きてるってことじゃないか。そんなこと、信じられない」
ナユタは眉間にしわを刻んだまま、首を横に振る。そのとき、ナユタの後ろで耳を傾けていたリスカがはっと何かに気付いたかのように首をはね上げた。
「もしかして……! 黒髪金眼って、あなたたち、まさかこの空の世界の先住民……?」