scene 10
「じゃ、ありがたくいただくとするか」
ナユタは林檎飴をしばらく眺めた後、その表面に開いた口をそえた。白い歯が、真っ赤な林檎を覆う飴を砕く。ガラスの破片のように細かに砕け、口の中に甘い飴の欠片が散らばる。ナユタはさらに、飴の奥にある林檎へと齧りつく。僅かな酸味が弾けるように口内全体へ広がり、飴の甘さと程よい具合に絡まりあう。
ナユタは満足げに息を小さく漏らし、口元を微かに綻ばせる。
「うん。すっごく旨いよ。ありがとう、リスカ」
「どういたしまして」
リスカは微笑みながら、林檎飴を頬張るナユタの姿を隣から見つめる。口元がべたつくのか、ナユタは林檎のように赤い舌で唇をなぞる。
「それからさ、ナユタ」
「うん?」
リスカは前方へ身体を乗り出すようにして、ナユタの顔を覗き込む。ナユタは怪訝そうな表情で、リスカの桜色をした瞳を見返す。
「ちょっと連れて行きたいところがあるんだけど……いい?」
「え? あぁ、別にいいけど。……何で?」
ナユタの問いに、リスカは一瞬視線を地へ落とし何かを考えている風だったが、
「……いいから! それ食べたら行くよっ」
結局明確な答えを口にすることはなかった。
「うっ、うん」
ナユタはそれ以上深くは理由を問わず、話の流れのままに頷くことしかできなかった。
* * *
「老様。祝祭の伝説は、真実のようです」
「ソラト王復活の伝説は、真実のようです」
黒髪金眼の少年と少女――アズリとアズハは、機械的な動きで同時に頭を下げる。
「そうか。ついに、我ら一族の、復活の日が、訪れるか」
アズリとアズハが頭を下げる先――暗い部屋の中で、スポットライトのように頭上から降り注ぐ光の中心に置かれた簡素なベッドの上に、豊富な白髭をたくわえた小さな老人が身体を横たえたいた。髭とほぼ一体化しているように見える白髪の隙間から覗く目は、頭を下げる二人と同じく、黄金の太陽のように美しい金をしている。一本残らず白色をした老人の髪は、年寄りの雰囲気を醸し出しているが、金色の瞳には老人にそぐわぬ、まるで己の目的をしっかりと見据える若者のようにまっすぐな光が浮かんでいた。
「どういたしますか、老様」
「ここへ連れて参りますか、老様」
顔を上げ、仏頂面で淡々と言葉を紡ぐ二人に対して、老人はゆるりと頷く。
「あぁ、任せたぞ。儂は、一族の皆を、広場へ、召喚する」
「了解いたしました」
「ただちに、連れて参ります」
アズリとアズハは再度機械的に一礼し――
ふいに、その姿を消した。