scene 9
「シャノン。そんな馬鹿みたいにたくさん食べてたら、太るよ」
「いいんだよ。ボクはヒカリを従えているだけで、体力を消耗すンの。これくらい食わなきゃ、身体が持たねーっつーの」
「ソう、ソウ。たクさん食べルコトは良いコと、アルよ」
食事をするための、明るい畳の広間。飾り気のないシンプルな内装のそこに、二人の人間と一台のアンドロイドの姿があった。
たくさんのご馳走が盛られた磁器や漆器をのせた、黒塗りのおぜん。その前に正座をして、同じく黒塗りの箸を持つ彩乃が座っている。その箸の持ち方は、まるでお手本のように綺麗な持ち方だった。
その正面に、同じくおぜんの前にあぐらをかいているシャノンがいる。
二人のそばに置かれたお櫃の隣。そこにはクリーム色の髪を持つアンドロイド、白胡が眩しいくらいにまっ白い割烹着を着て座っていた。
シャノンは白胡の意見に満足するかのように大きくうなずくと、行儀悪くその手に持った箸の先で彩乃を指した。
「そーだぞ。お前ももっといっぱい食べろ。ボクみたいに」
シャノンのまるで自分を褒めているような意見は、
「あたしゃいいよ。もともと小食なものでね。どこかの誰かさんと違って」
ご飯を口に運んでいる彩乃に、あっさりと一蹴されてしまった。
「む」
シャノンは半ば身を乗り出し、鋭い視線を彩乃に向けた。への字に曲がったその口の周りには、白いご飯粒がぽつぽつ。その姿は、少し幼くも見えた。
そんなシャノンの怒りに反応してか、彼女の周りを飛び交うヒカリが小さく震え始める。ヒカリの変化に、その場の空気がわずかに揺らぐ。その微妙な変化に鋭く気付いた彩乃は小さく首をかしげて、自分を睨みつけているシャノンを見た。肩の上で、漆黒の髪がしなやかに揺れる。
「何だい? 空気が揺らいだよ?」
「あっ、いや。その言い草が、ちょっと気に障っただけだ。そのボクの些細な怒りに反応したヒカリが揺れて、空気も一緒に揺れたんだよ」
おぜんからわずかに身を乗り出していたシャノンは、もといた場所へ身体をすとんと戻す。と同時に、ご飯粒一つ残さず見事なまでにからっぽになっているどんぶりを、すっと白胡に差し出した。
「白胡。おかわり」
「了解シた、アル」
白胡はシャノンが差し出したどんぶりを右手で受け取る。ロボットのものとは思えない、滑らかな肌の腕がシャノンの方へ延ばされると同時に、空いている左手はお櫃のふたを持ち上げた。粒が立った、艶やかな白米がふたの下から現れ、ほわんと白い湯気を上げる。
「……にしても、使いにくいな。この棒」
「棒、じゃなくて、箸だよ」
「そうそれ。こんな持ち難ぃもン……。ナイフとかフォークとか、スプーンはねぇのかよ?」
まるで幼児が箸を使うかのように、二本の箸を〝グー〟で握っているシャノンはぐさぐさと、磁器に盛られた里芋の煮っ転がしを箸の先で刺し、蜂の巣状態にしながら文句を垂れていた。
「何言ってんだい? ナイフはあんたの国のアシュリーで大量生産されている殺人用の武器だろう? それにその〝ふぉーく〟とやらも〝すーぷん〟とやらも、ここにはありゃしないよ」
「……すーぷん、じゃなくてスプーン、な」
シャノンは、怪訝そうな顔をして間違った言葉を紡いだ彩乃へ向けて、小声でそっと訂正を入れた。
「さっ。食事も終わったことだ。腹ごなしに、刀の稽古といくよ」
食事が終わり、箸をおぜんの上に転がしたばかりのシャノンに、さっそく飛んできた彩乃のそんなお言葉。
「はぁ? こんな状態で動いたら、食ったもンが腹から逆流してくるっつーの」
呆れたような、信じられないというような視線と声を、シャノンは彩乃にぶつけた。
「おやおや。そんな品のないことをいうんじゃないよ」
「……オイオイ。言わせてんのは誰ダヨ」
身体を後ろに倒し、その身体を支えるようにして後ろに手をつけて座っているシャノンは、目線を右へ逸らして彩乃を視界から追い出した。
「何だい? 何か文句があるのかい?」
立ってシャノンを見下ろしている彩乃は、ギロリとシャノンを睨みつける。
「イイエナンデモゴザイマセンアヤノサマ」
シャノンは、世界中を探してもこれ以上素晴らしい棒読みは無いんじゃないか、と思って疑わないくらいの棒読みとカタコト発音で、真っ平らに微塵の抑揚もなく言葉を発した。
「ふんっ。棒読みとカタコト発音はいただけないけど、ま、いいとしようじゃないか。許してやるから、木刀持って外に出な」
彩乃はそう言うと、くるりと身を翻してシャノンに背を向ける。シャノンは小さくため息。そんなシャノンのため息の音を鋭く聞き取った彩乃は、きっとシャノンを睨みながら振り返る。
「ため息をつくんじゃないよ! それから、ちょっと失礼で辛辣な言葉かもしれないけど、あんたはここにおいてもらっているっていうことを忘れるんじゃないよ」
「……分かってる。ボクは自分を助けてくれた人に恩をあだで返すようなことはしないさ」
シャノンは顔つきを引き締め、神妙な声と面持ちでそう言った。
「分かってんだったら、ほら、さっさと外に出た出た。何事も鍛錬を怠ってはならないよ」
彩乃はその顔に微笑を浮かべて、シャノンを急かすように言う。そして、この広間と廊下を仕切っている木戸のほうへ歩み寄り、横にスライドさせた。木戸は抵抗もなく簡単に開き、その向こうへあっという間に彩乃は姿を消す。
「貴殿モ行く、アルか?」
「……あぁ。もちろんだ!」
シャノンはそう言うと、畳につけている手に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。
「よし! 腹ごなしといくか」
宣言するかのように言うと、シャノンは彩乃と同じ木戸をくぐって広間から出て行った。
「……頑張る、アルよ。彩乃殿ハとッテも強い、アルよ」
広間には、空っぽになった食器類と、空っぽになった大きなお櫃と、割烹着姿の一体のアンドロイドが取り残される。
広間で正座をしているアンドロイドは、本物の頭髪のようなクリーム色の作り物の髪を揺らして、愛らしい微笑みを浮かべた。
今日は更新遅くてすいません!
午前中は眼科に行ってまして、待ち時間だけで軽く三時間はかかってしまいまして……。
しかも、毎回ギリギリで免れていた眼鏡をとうとうかけなければならなくなってしまいました……。
ま、でも私眼鏡萌えなんで、いいですけどね☆
私の大好きなマンガ「黒執事」の第二巻でセバスチャンが眼鏡をかけているイラストは、最高でした……♪
あ、ツインテールのシエル君もよかったですけど。
私、ツインテール萌えでもあるので。
っと。また全然関係のない話ばかりしてしまって、申し訳ないです。
超身勝手なダメ人間で申し訳ありません……;