魔法少女は現れない
では改めて、変身を試す事になりました。
誰に変身するかで揉めています。
今ココ。
「なんでパパにならなきゃいけないのよ!」
「ヒノリ、早良君が説明しただろ?」
「やだよ!まだ早良さんか朱鷺君がマシよ!」
酷いな人の事をマシだとか。
まぁ俺もサブマスになれって言われたら拒否するわ。
「なら俺でいいよ」
もういい加減、付き合うのも面倒だよ。
「朱鷺君、良いのですか?」
「まぁ、俺なら何かあっても皆が止められるし、いいですよ」
「朱鷺君にはご迷惑をおかけします。では、ヒノリさん構いませんね」
さっき自分で俺の名前を出した手前、文句は言えないだろ?
「わかったよ。朱鷺君ならいいよ」
上から目線だな。
サブマスがノリノリの周りに結界を張る。
「では変身して下さい」
「う~ん?こう?」
ノリノリが呟いたら、身体からゆらっと黒い靄が出て、段々と濃い影のようになって身体全体を覆う。
「ううっ」
黒い蓑虫みたいだと思ったら、呻き声が聞こえて、唐突に影が消えた。
魔法少女みたいに、半裸になったりしなかったのは、良かったわ。
自分の半裸とか見たくない。
「これは凄いですね。全く見分けがつかない」
ノリノリがいた場所に現れたのは、細身の少年だ。
まぁ、俺なんだけど。
服装もライダースジャケットに黒のジーンズと全く同じだ。
腰に下げた木刀も同じだな。
ホントに良かった。
服装がノリノリのままの可能性も、懸念していた所だからな。
もし服装が変わらないタイプの変身なら、ピンクのカットソーに膝丈のキュロットの俺とか誰得なんだって話しだよ。
「やだ、そんなに見ないでよ」
これは心はどっちなのか?
「あなたはヒノリさんですか?」
「そうだよ?」
俺の顔で小首を傾げるな。
「では、次にお父さんに変身してもらえますか?」
「嫌だよ!」
「なぜですか?」
「だって…臭いんだもん」
これは…酷い。
「ひ、ヒノリ?パパ臭いの?」
「納豆みたいな臭いがする」
サブマスにクリティカルヒット!
崩れ落ちたよ!
「こら朱鷺、遊ぶでない」
「え~」
俺は何もしてないぞ!
「爺ちゃんは、誤魔化せないな」
「立ち方でわかるぞ」
父さんも判ってたみたいだね。
「つまり身も心も朱鷺君になっているのですね?」
言い方ァ…やめて何かやめて。
俺にもクリティカルヒットだよ。
「ゴメンなさい。皆を誤魔化せるか試してみたかったんだ」
「ヒノリじゃなかった?じゃあ納豆臭くないんだね?」
「それは言えない」
やっぱり臭いの?とまたもや崩れ落ちたサブマスは放っておこう。
やはり俺の精神力は、ノリノリに勝ってしまったか。
いや、さっき勝負しますか?って出たんだよね。
勘が勝てると言ったら、もう勝負するしかないでしょ?
勝敗は勝ちで、状態は無傷(疲労度1)だから上乗せありだな。
リザルトが経験値12、技術値8、精神力1、Eガチャチケット[F]を得たよ。
爺ちゃんとの勝負に比べるとしょっぱいな。
いや、人外と比べたら駄目だ。
疲労度の1は、変身する時の半裸とか服装の心配とかクリティカルとか、心の疲れもカウントするのかな?
まぁ戦う勝敗ばかりじゃないから、状態も色々あるよね。
どうやら変身時間が終わったみたいだ。
「ヒノリさん、大丈夫ですか?身体に痛みや違和感はありませんか?」
早良さんが、元に戻ったノリノリに声をかける。
「あれ?変身したの?」
ボーッとしてたけど、大丈夫か?
「変身は終わりましたよ。変身中の事は覚えていませんか?」
「…覚えてない」
「体調は大丈夫ですか?とりあえず座りましょう」
心が変わると、変身中の事は覚えてないのか。
皆も座ると、新しい飲み物を出してくれる。
ガチャミがうるさいので、こっそり早良さんから貰ったクッキーを与える。
ノリノリは変身中の事を聞かれてて、全然こっちを見てないから、渡す時だけ気を付ければ大丈夫だ。
父さんは空気中に消えたクッキーに驚いてるけど。
これはマジシャンにもなれそうだ。