推しは闇堕ちヒーロー
「ハハハ、驚いたじゃろ?あのヤンチャ坊主が、今は最高統括責任者なんじゃから」
「ヤンチャ坊主は酷いなぁ。あれはオレなりのロールプレイだよ?」
「前から言っとるが、そのロールプレイ?をする必要があるのか?」
「そりゃあ、ヒーローは誰より目立ってナンボでしょ?」
「ワシには理解出来んわ」
爺ちゃんが呆れて首を左右に振る。
え~早良さんのエリート紳士キャラもロールプレイなの?
「だから、今は誰もオレがグラマスだなんて思わないから、あちこちに出られるんだよ」
テレビで見たグラマスは、もっと年上に見えたし、白髪混じりのイケオジだった気がする。
「光成は昔から徹底してたからな」
マジか…父さんまで笑ってるし。
「付き合わされる方は、困ったもんじゃがの?」
笑いが出るわ、なんて言う爺ちゃんに、笑うより驚くわ!
いや、たまに腹黒属性は感じてたけど、闇堕ちヒーローだったコーチャンとは、黒さの方向が違うじゃん?!
「ホントにコーチャン?」
「そうだよ、トキ。やっと思い出した?」
髪をかきあげて、ニヤリと影のあるニヒルな笑みに、コーチャンだ…と呟く。
「ビックリし過ぎて心臓が止まった」
「ハハッ、心臓が止まったら死んじゃうぞ?」
おおぅ、何か黒いだけじゃなくて、妖しい笑みまで修得してるね。
「何で最初に言ってくれなかったの?」
「トキが思い出すかどうかと思って?」
「いや、全然キャラが違い過ぎてムリ」
「そうですか?私はいつも同じですよ?」
「いやいや、全く別人だよ!それに、ずっと会いに来なかったじゃん」
「あぁ、大学やギルドに入って色々と忙しかったんだよ」
「そうなんだ?あれ?でもコーチャンは悪の秘密結社で働いてるとか言ってなかった?」
「ぶははは、悪の秘密結社!朱鷺、それを信じてたのか?」
ちょ、父さん笑うなよ!
「うるさいな!何かフッと思い出したから言っただけだろ!」
「ふふ、ギルドは悪の秘密結社ではありませんよ?」
もうコーチャンになったり早良さんになったりしないで!
「あ、まさか俺がステータス獲得に行くの知ってて、受付にいたの?」
「偶々、いつもの視察で行ってただけですよ」
いや、偶々このタイミングなんておかしいよ。
父さん達に聞いて、完全に知ってて黙ってたと、今なら確信出来る!
「やっぱトキは賢いな。そう、来るのがわかってたから、視察を兼ねて受付で待ち構えてたのさ!」
本部からの派遣として時々やってるから、職員も慣れてるよと続けたセリフに、職員の苦労が偲ばれる。
それでマス姉も、本部の人だとか言ってたんだ。
「いつ思い出させるかサプライズを考えてたのに、まさかあんな事が起きてるなんてね。オレがサプライズを受けたよ。流石は八女家だね!」
「八女家で纏めるな。そんな事を言うなら、お前も尾藤家だろう」
「とんでもないのは親父だけだろ?八女家みたいに親子、兄弟、孫までがとんでもない一族じゃないよ」
んん?びとう?早良じゃないの?
「ビトーだけじゃなくて、お前も入れろ。その若さでグラマスなんて、充分とんでもないぞ」
あれ?びとう?
「あんな1人でダンジョンにヒャッハーして、間抜けな理由で死んじまったアホ親父と、同じ括りに入りたくない」
「そう言うな。アヤツも死ぬつもりで行った訳じゃないじゃろ?」
死んだビトウ?
あれ?何だか聞き覚えが…
「それはそうだろうけど、余りにもアホ過ぎて、今でも腹が立つんだよ!」
「あー!まさか伝説の探索者ビトー?え?早良さんのお父さんなの?!」
「朱鷺も会った事があるんじゃが、本当にあの頃の事は忘れてるんじゃのう」
「ええ!?そんなの会ったら絶対覚えてるよ!テレビでもビトー特集は毎年やってるし!」
「やっぱり忘れたままか。オレも色々と調べたけど、該当するスキルや魔道具も見つからなくてさ」
「しかし昨日は大牟田の事も思い出したようだし、今日もヒノリちゃんや光成の事も思い出したから、ステータスを獲得した事で、何か切っ掛けになったんじゃないか?」
ええ?なんか皆の話しだと、俺って記憶喪失なの?
でも、忘れてる感覚は全くないけど…
確かにツルピーやノリノリの事も会うまで忘れてたけど、子供の時に数回会った人なんて、そんなもんじゃない?
でもコーチャンの事や、ビトーに会った事を忘れてるのは変だよな。
こんなにハッキリとコーチャンの事を思い出せるのに、ずっと会わなくても疑問にも思わなかった。
ビトーも、テレビで葬儀をやってたのを覚えてるくらいなのに、実際に会った事は思い出せない。
「あのさ、俺って記憶喪失なの?」
「うむ。自覚がないし、忘れた直後はボーッとしとったが、直ぐにワシらの事は思いだしたし、他の事も自然に思い出すだろうと思ってな。そしたらワシらも、記憶喪失なんて事は忘れておったわ」
ワハハって、孫の記憶喪失を笑い飛ばすな!
「昔は"コーチャンみたいなダークヒーローになる"って、オレの後ろをチョコチョコ付いて来てたのに、久々に会いに行ったら"お兄さん誰?"って言われたオレのショックがわかる?しかも"探索者なんてダサいよ!今のトレンドはお笑い芸人だ!"とか言ってギャグの練習してたのを見た時は、オレの可愛い弟分の記憶を奪った犯人を、見つけ出して殺ると決意したよ」
なんだか見つけ出してやる、が違うニュアンスに聞こえた。
え~コーチャンってそんなキャラだったの?
てか俺の黒歴史を暴露しないで!
アレはクラスでギャグが流行ってたから、流されてしてただけなんだ。
あのギャグは永久封印だよ!




