独り食レポ
「兎に角、ギルドの記者会見を待つのが良いんじゃないかな」
職業の見せ合いっこは1度だけで充分です。
俺は危機を回避するため、皆の意識をそらす。
「そうだね!朱鷺の話もホントか確認しなきゃ」
おおい、俺の話を信じてないのかよ!?
「あ、そうだ!尚音ちゃんや直くんにも教えた方が良いかも!」
思い付いたら即行動とか、猪突猛進のスキルもあるんじゃないのか?
スマホのアプリでトークを送ってる姉を見ながら、ホッと息をつく。
ふと黙ったままの父さんを見ると、高速フリックで何か打ってる。
どうやら話を聞きながら、誰かに連絡してたみたい。
爺ちゃんもテレビに意識を向けて、この話はお仕舞いな雰囲気だね。
職業を見せる事にならなくて良かった。
でも爺ちゃんと父さんのは見たかったと思うジレンマ。
「ご飯出来たよ~♪」
そこに母さんの楽しそうな声がかかる。
そう言えば、母さんの職業も聞いてみたいような聞くのが怖いような…
育児休業中だとか言って、俺が小学校に上がるまでは専業主婦をしてたけど…
今は家事があるからって、パートに行ってるらしいけど、どこで働いてるか教えてくれないんだよね。
女は謎がある方が素敵になれるのよ♪と何かのセリフみたいな事を言ってさ。
まぁ父さんの稼ぎだけで生活出来るから、ずっと専業主婦でも良いと思うけど、母さんは働きたいって言ってるからね。
我が家の男性陣は女性陣に弱いのだよ。
逆らってはいけないと刻み込まれてます。
キッチンに移動して対面式カウンターの料理を、姉ちゃんと一緒にダイニングテーブルに運ぶ。
父さんは冷蔵庫から飲み物を取ってる。
母さんがコップを皆に配ると、爺ちゃんがお気に入りの焼酎を持って席に着く。
それぞれが好きな飲み物を注いだら、いただきますの合掌。
早速カレーを掻き込んでウマウマ。
爺ちゃんはカレーじゃなくて白飯と刺身だけど、それも美味しそう。
でも、やっぱり母さんのカレーは最高だな!
程よくピリリとした中辛。
今日の肉はミノタウロスかな?
霜降りより赤身が旨いんだよね。
カレーにゴロゴロ入ってるボリューム感が成長期には嬉しいね!
野菜はオーソドックスにタマネギ、ニンジン、ジャガイモで、逆に肉の存在感が引き立つ。
サラダは父さんと俺が好きなマカロニサラダだ。
マヨラーではないが、マヨネーズたっぷりのサラダは、添えられたレタスと一緒に食べると美味しいな。
それからコロッケもあるから、腹ペコ属性の食欲も満たされるね!
口の中の辛さをカニクリームコロッケで中和して、更にカレーに挑む。
その後にガッツリした肉入りコロッケを、カレーにトッピングして一緒に食べる至福。
そこに福神漬の出番だ。
箸休めを入れたら、おかわりを半分だけして、トッピングなしのカレーをもう一度楽しむ。
麦茶で最後の辛さを押し流してフィニッシュだ。
は~満足満足。
皆が食べ終わったら、父さんが今日の成果をアイテムボックスから取り出した。
このために隣県のダンジョンに行ってたんだもんね!
秋限定ドロップだから、この時期を逃すと来年になる。
人数分が出るまで通う事になるから、大変だよ。
さてそれでは、いよいよご対面~!
お楽しみの迷宮モンブランだ!
ダンジョンの謎は色々あるけど、素材じゃなくて完成品のスイーツまでドロップするんだよね。
実はガチャでも出てたよ迷宮チーズタルトなんかが…
ガチャミが涎を垂らしながらメチャ見てたけど、オヤツ抜きの刑だからな。
ストレージは時間停止だから、入れておけば何時でも食べられる。
ガチャミが勝手にストレージから出して食べないか心配だが、俺の許可がないと出来ないって言ってたのを信じるしかない。
皆の前にモンブランが行き渡り、母さんがコーヒーを入れてくれる。
いざ実食です!
…旨い。
滑らかなクリームの舌触りの後に、濃厚な栗の香りが鼻に抜けて、スポンジに染み込んだ酒の苦味がクリームの甘さと調和する。
この酒はラム酒か?
いや、リキュールのような風味を感じる。
まさかマロンリキュールなのか?
これがマロンの相乗効果を生んで、クリームを引き立てている。
更にフォークで切り取ると、中に栗のグラッセが丸ごと1個入っている。
この贅沢がたまらない。
ショートケーキの苺を、最初に食べるか最後に食べるか議論と同じ、決着のつかない命題を俺に突きつける。
だが、俺は最後に食べる選択をする。
丁寧に周りのクリームを崩さない様に食べ進め、最後の一欠片と共にグラッセを丸ごと口に入れる。
甘すぎない絶妙な栗が砕ける心地よさに目蓋を閉じる。
一番好きな味を、最後の余韻として感じる至福の時はすぐに終わり、またこの時間を感じたいと思わせる逸品だった。




