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セイクリッド・セイバー・アルティメット

 隣の市にある草原ダンジョンは、遠いから放課後は通い難いし土日は混むので今まで行った事はなかった。


 虫やゴブリンのように、見た目が気持ち悪いモンスターが少ないダンジョンは人気なのだが、草原ダンジョンは名前の通り草原なので、薬草類も豊富で稼げるのも魅力だ。


 ただ、草原フィールドは面積が広いため、ランクEですら最低でも一辺が5kmはあると言われている。


 フィールドの形が四角とは限らないが、少なくともこのダンジョンは四角形だ。


 ギルドの地図があるとはいえ、移動するだけでも時間がかかるのが玉に瑕だな。


 短い草しか生えていない1階ではモンスターを発見しやすいけれど、向こうからも見つかるため無視して階段に向かうのも難しく、戦闘を含めると1時間以上かかる事もあるのだとか。


 5階まで5時間で行ってボスを倒して、転移水晶で帰還すれば6時間以内で戻れるかなって感じだ。


 さて、何故この草原ダンジョンに来たのかと言うと、成り行きとしか言いようがない。


 ヨーへーがナンパした隣の列の女子と来た…訳ではなく、ダンジョン科のむさ苦しい男と来る事になった。


 なんでやねん。



 ◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇



 事の発端は、ヨーへーのナンパだった。


「違うだろ」


「いや、あれがバタフライ効果で、俺を嵐に巻き込んだんだ」


 まあ、ザックリ言うと、トラブルで武道館が壊れた時にクラスの女子に俺がゴブリンを倒した事があるって話しをした翌日、どこをどう話が回ったのか、ダンジョン科のいきったモヤシっ子が乗り込んで来たのだ。


「このクラスに八女ってヤツがいるだろう!」


 バンッとドアを開け放って大声(本人のイメージ・実際は裏声)で叫ばれて、教室にいたヤツが全員俺を見た。


 こら、何でこっち見るんだよ。

 普通に帰ったからいないとか言えば済んだのに。


「お前が八女か」


 ズカズカ(本人のイメージ・実際はペタペタ)と歩いて俺…ではなくヨーへーに聞くモヤシっ子。


「違う」


「なら、お前か」


 次に馬洗に聞く。

 どうせ俺は弱そうにしか見えないよ。


 あ、違った。

 名前を呼ばれた瞬間、無意識に隠覆術で気配を消していたわ。

 気配隠蔽は使用許可が出ているから、ついつい。


「僕じゃないよ。八女君なら、もう帰ったよ」


 馬洗ナイス。


「そうか、邪魔したな」


 素直に立ち去ったモヤシっ子に、何がしたかったんだろうと思ったが、変なヤツには関わらないに限る。


「さて帰るか」


「そうだな」


「そうだね」


 で、更に翌日、またやってきたモヤシっ子に、既に俺だとバレてたので、同じ手は通じなかった。

 と言うか、朝礼前に来たから、まだ来てないと言って躱して二時間目の休み時間でバレた。


 それで仕方なく用件を聞くと、俺と勝負がしたいと宣ったのだ。


 理由は、ゴブリンを倒せるのは最低でもレベル5以上で、5階のボスを倒している事になる。

 自分もボス戦はまだなのに、嘘を吐くヤツが許せないとかなんとか。


 嘘って勝手に決め付けるなよ。


 でも、ギルドカードを見せるつもりはないので、信じないならそれでも構わないと断わろうとしたら、何故かヨーへーが受けてしまって、イマココ。


 勝負の方法は、草原ダンジョンでギルドの買取価格の合計なんだけど、パーティー単位だから俺達が人数的には不利なのに、何故これで偉そうにオレが勝つとか言えるのかが謎すぎる。


 本当は今日もギルドでバイトの予定だったから、そのまま無視して行かないつもりでいたら、コーチャンからギッタンギッタンにしておいでと言う電話が来て逃げられなくなった。


 何で知ってるのか聞き出したら、例の護衛(スパイ)が報告してた。


 え?教室の会話までわかるの?

 あのモヤシっ子が校庭で宣伝してた?

 アイツはバカなの?

 負けて赤っ恥をかくのはモヤシっ子の方だよ?


 なのに、勝手に勝負を受けたヨーへーはバイトで来れないとか、マジでムカつく。


 父さん達との約束で、ソロでは探活しないって事で断わろうと思ったら、いつの間にかコーチャンが参加する事になってた。


 なんでやねん。


 勝負は勝てるだろうが、俺には得る物が何もないんだけど。

 正直、高校で誰が一番とかどうでも良いよ。


 自分のスキルに自信があるにしても、自己顕示欲が強すぎだな。


 どうやら、この調子で武道館での授業中にスキルを使って、クラスメイトのマウントを取ったみたいだ。


 ダンジョン科1年のトップはオレだ、とかなんとか言ってたわ。


 そんな理由で武道館を壊したの?馬鹿なの?


「それじゃあ、ルールの確認をするよ。僕達のパーティーと君達のパーティーで、草原ダンジョンでの今日1日のドロップアイテム及び採取物の、ギルドでの買取価格の合計が高い方が勝ちって事で良いかな?」


 本日は家庭教師の尾藤光成バージョンなので、相変わらず甘ったるい喋り方だ。

 自己紹介は終わっているが、モヤシっ子達の名前は全く覚えていない。


「そうだ。オレ達の『セイクリッド・セイバー・アルティメット』が勝ったら、ゴブリンを倒したのは嘘ですと言って、クラスメイトの前で土下座しろ!」


 なんて恥ずかしいパーティー名なんだ。

 それに、そんな条件なら負ける訳にはいかなくなっただろ。


「それじゃあ、僕達が勝ったら、それと同等の事を請求しても良いんだよね?」


 甘ったるい声なのに、そこはかとなく黒さを感じるのは、俺の心が汚れているせいかな。


「ふん。好きにしろ!オレ達が負ける事などないからな!」


「後からのクレームは受け付けないけど、他に条件は何もないよね?」


「ああ。男に二言はない!」


「では、ここに契約は交わされた!コントラクト!」


 え?


「「「「「「え?」」」」」」

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