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最低賃金は適用されない

 森の中と言っても林に近いので、木と木の感覚も広くて視界はそこそこ確保出来る。


 俺、ヨーへー、雅美さんの順で周囲を警戒しながら進んで行く。


 光も射すから普通なら下草が生えそうなものなのに、短い草や落ち葉が多少あるくらいで歩くのも楽だ。


 まあ、落ち葉は滑りやすいから気を付けないと駄目だけどね。


 と、言ってるそばから足を滑らせたヨーへーの照れ笑いが、女子をキュンとさせるのだな。


 傍にヒール草と毒消し草を見つけたので、採取しておく。


 ダンジョンには、人をダンジョンに行かせようと言う意志があると言われている。

 ダンジョンと言うか、たぶんダンジョン神だけどな。


 ダンジョンを放置するとモンスターハザードが起きたり、ドロップアイテムや鉱物資源などがあるのも、人を誘き寄せるためとしか思えないからだ。


 以前にも触れたが、ネットなんかで要望(炎上)があれば対策してくるし、恩恵をもたらす事でダンジョンへの忌避感を減らしているのだ。


 初めから虫系のダンジョンを造らなければとも思うが、根本的な変更は出来ないようで、アンデッドダンジョンとか不人気ダンジョンはなくならない。


 代わりにドロップ率が若干良いとか、採取物や宝箱なんかが多かったり、安全地帯に設備が整ってたりする。


 ここもその例に漏れず、採取物がランクEにしては豊富だし、安全地帯にログハウスとトイレがあると言う訳だ。


 虫に強い人ならボーナスステージだぞ。


 その割りにレアアイテムがショボいとか言われているが、これも科学の進歩した現代だからで、時代によっては白い染料も高級品になるだろう。


 索敵に反応のある方へ進みながら、見つけた薬草を採取する。


「あ、魔力の実があるぞ」


「ヨーへー待て!」


 無防備に近付くヨーへーを慌てて止める。


「わっ!?」


 振り向いたヨーへーが躓いて転ぶ。


 魔力の実のなっている木の下が藪になっていて、そこからスライムが触手を伸ばして足を引っかけたのだ。


「要兵衛!」


 雅美さんも慌ててヨーへーに向かっているが間に合わない。


 転んだヨーへーに、更に触手で攻撃しようとしているスライムを、蹴り技の衝撃で吹き飛ばす。


 ただの風圧なので、スライムを転がすくらいしか出来ないが、丸いのでコロコロと飛んで行く。


「ほら、早く立ってスライムに攻撃しろ」


「わ、わかった」


「大丈夫だから落ち着いてやれよ」


 他にモンスターがいないか確認するが、近くに反応はないのでヨーへーに倒させる。


 転がったスライムは怒っているのか、威嚇の上下運動が激しい。


「やあっ」


 あ、バカ野郎。

 思い切りメイスで叩くからスライムの体液が飛び散ったじゃないか。


 講習で倒さなかったのか?

 ノリノリ2号と呼ぶぞ。


 何かあった時のために近くにいた俺の方にまで飛んで来たが、華麗に躱したので被害はヨーへーだけだ。


「うわっ、やっちまった」


「落ち着いてやれって言ったのに」


「はい、ティッシュで拭いておきなさい。溶けたりしないけど、放っておけば傷むからね」


 スライムは大体どこのダンジョンにもいるから、基本中の基本だぞ。


 ぐるりと見回して警戒するフリをしてから、魔力の実を採取すると探索を再開する。


「俺より前に出るなよ」


「わかったよ」


「ほんと、意外とせっかちなんだから。アイツもそうだったわ」


 誰かを思い出したのか、ハイライトが消えかけている。


「ほら、モンスターがいるから、気を抜くなよ」


 ビッグキャタピラーなので槍でやらせる。


 振り回すような広さはないが、正面にいるモンスターを突くだけなら問題ない。


 森に入ってから、槍は雅美さんが預かっているので渡してもらう。


 ビッグキャタピラーは柔らかいから、メイスでやり過ぎるとスライムの二の舞になるので注意が必要だ。


 黒っぽい汁が飛ぶのは鳥肌ものだよ。


 槍で2度突いたらビッグキャタピラーが消えた。

 頭などの急所なら一撃なんだが、まだまだ狙いが甘いな。


 突いてから抉るのも有効だが、下手をすると口から汁が飛ぶのでお薦めはしない。


 その後もスライムやビッグキャタピラーに時おりホワイトバタフライを倒して、そろそろ制限時間なので引き上げる事にした。


 この前のイレギュラーのようなイベントもなく、ヨーへーが転んだ以外には何事もなく探活デビューは終わった。


 今日の成果は魔石と白い染料の他は、ヒール草と毒消し草と魔力の実を採取したので、合計で5200円也。


 3人で分けると2千円にも満たないが、E級としては稼いだ方だ。

 これも強運のご利益なのか。


 でも今日はドロップアイテムは倒した人の物と言う事にしていたので、ヨーへーの買取価格2400円を引いた残りを俺と雅美さんで分ける事になった。


 俺は残りも三等分で良かったのだが、それだとヨーへーの取り分が多すぎると言われたから。


 密やかにチケットを手に入れているので、全く損をしていないのだが、秘密なので言えない。


 雅美さんが分配について口出ししなかったのは、今後はヨーへーと俺が二人で探活する事も許してくれたので、俺達のルールになるからだ。


「俺が一番役立たずなのに貰い過ぎたら、一緒に探活出来ないだろ。全部三等分でも良いのにさ」


「今はヨーへーが一番大変なんだから良いさ。三等分したのとあまり変わらないくらいになってるし」


 爺ちゃん達とやってる時は、全て俺が貰ってたからな。


「わかったよ。でもE級って、時給が最低賃金にもならないんだな」


「今日は稼いだ方だぞ。俺なんか初めて探活した時は、時給300円もいかなかったよ」


 買取0円が出たのと、採取物はなかったのに加えて、スキルの検証もしてたので。

 ガチャアイテムはノーカンなので、そんなもんだ。


 そして、探索者は個人事業主なので最低賃金は適用されない。

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