買わなきゃ当たらない
デザートの苺プリンを食べ終えて、コーヒーを飲みながら何処に行くか相談する。
「久々にボーリングでも行くか?」
「俺は探索者用じゃないと駄目だぞ?」
「そうか。料金が少し高いけど、しょうがないよな」
「普通の方でも出来ない訳じゃないけど、万が一にでも壊したらヤバいからな」
「そうだな。年に何回かは、そんなニュースを聞くからな」
「ステータスを封じる設備は高額だから、商業施設では殆ど使われないからな」
「かなりレアなアイテムか、スキルで出来るんだっけ?」
「詳細は公開されてないけど、長期間の効果ならアイテムなんじゃないか。スキルだと時間切れがあるし。ずっと効果があるのはパッシブスキルだけだろ」
「ああ。G7とかでやってるみたいに、期間限定ならスキルでも出来そうだけど、ずっととなると無理か」
「どうせなら全部を探索者用で作ってくれたら良いのに」
「利用者が探索者だけなら良いけど、普通の素材を使った方が安いんだから仕方ないだろ」
「ダンジョン素材でも安い物もあると思うけどな」
「確かに鉄類は、でかい鉱山が発見されてから安くなったって言われているな。でも高レベルになるとダンジョン産の鉄鋼でも曲げちまうんだろ?」
「高レベルになると力の入れ方を失敗しなくなるから、寧ろ普通の素材でも大丈夫だぞ」
爺ちゃんなんて、HP1しか削らない攻撃が何度でも出来るし、紙一重なんてお手のものだぞ。
じゃなきゃ、いくらエルダートレントだったとしても、道場なんて破壊されまくりだろ。
無駄な力を使わなければ、物を壊す事なんてないんだってさ。
生卵を毎回握り潰す人がいないのと同じで、普通に力の使い方が出来ていれば物を壊す事はないのは自明の理だ。
探索者用のレーンは、壊れにくい素材を使っているのと、結界の応用でレーンから玉やピンが飛び出さない仕掛けがあるので、よっぽどレベルが高い人がわざと強く投げない限り大丈夫だ。
普通の玉は16ポンドまでだが、こちらは20ポンドまで用意されている。
これ以上の重さはレーンを傷めやすくなるし、そもそもピンを倒すのにそこまでの重さは必要ない。
ステータスを得る前なら13ポンドを使っていたが、とりあえず16ポンドでやってみる。
「おっ、それで行くんだ」
「これくらいなら大丈夫なはずだからな」
「いいなぁ。俺もレベルアップしたい」
「一応ステータスは取得したんだよな?」
「ああ。母さんも、ステータスの有無でモンスターハザードの生存率が違うのは解っているからな」
「何のスキルがあるか聞いてもいいか?」
「いいけど、それなら朱鷺も教えてくれよ?」
「わかった。全部じゃなくて、言えるヤツだけでいいよ」
「まあ、ずっとサッカーをやってたから蹴りと、初期スキルが管楽器だったよ」
「管楽器?」
「そうだ。笛とかフルートやトランペットなんかの吹いて音を鳴らす楽器なら、何でも上手く吹けるスキルだな」
「へえ。今からでもそっちに転向すれば、プロになれるんじゃないのか?」
「楽譜が読めないのにか?」
「へ?楽譜は読めないのか?」
「ドレミくらいは判るが本格的なのは無理。学校で習ったアルトリコーダーとかは吹けるけど、知らない曲は駄目だな。耳コピで適当に吹いても、それっぽくは聞こえるけど、正しいのかは判断出来ない」
「つまり、元々音楽をやってないと微妙って事か…なるほどプロにスキル持ちがあまりいないのは、そのせいか」
「そうだろうな。音楽が特に好きでもないのに、それなりに練習は必要なんて言われたらやらないだろ」
「そうだな。野球をやってるのにサッカーのスキルが出たからって、サッカーをやるとは限らないよな」
「そうそう。ところで朱鷺は何のスキルだったんだ?」
「俺は刀術だな。初期スキルは幸運だったよ」
「なんだって!?それって、宝くじが当たるとか言われているアノ?」
「宝くじが当たるかは買ってないから知らん。どっちかと言うと、レアドロップが出やすいとかだな」
「バカヤロー、何で買わないんだよ!?スキルがあっても、買わなきゃ当たらないんだぞ!」
「いや、まあ、そうだけど、ちょっと落ち着けよ」
「これが落ち着けるか!」
「どうどう」
「俺は馬じゃない!」
「まあ、例え宝くじが当たっても、お前のものじゃないんだし」
「な、なんだってー!?」
何で分け前を貰える前提なんだよ。
例え分けても、億とかになれば半分以上を贈与税で取られちゃうから勿体ないだろ。
「いや、一緒に行って、お前が買った宝くじを俺が買えばいいんだ」
それって意味があるのか?
「抽選の時に俺の物でないと当たらないんじゃないか?」
知らんけど。
「そ、そんなぁ」
「なんでそんなに金が欲しいんだよ」
「普通は金が欲しいだろ」
「そうだけど、普通以上に欲しがってるように見える」
「親友のお前だから言うけど。実は、母さんが付き合ってる人がいるんだけど」
「ちょ、ちょっと待て。オバサンに彼氏がいるの?」
「彼氏って言われると、子供としては複雑な気分だが、まあ、そんな感じだ」
意外だ。
オジサンの件で、男なんて信用しないような発言をしていたのに。
でも、あれから6年は経っているから、吹っ切れたのかもな。
「遮って悪かった。それで?」
「その人は、母さんが勤めてる店の店長なんだけど、経営が上手くいってないみたいでさ」
「ああ、あのスーパーか」
「近くに大きなショピングモールが出来てから、客が減ってるんだよ。それで、店を畳んで田舎に帰るから、母さんも一緒について来て欲しいって言われてるんだって」
ほほう、それは実質的にはプロポーズってヤツですな。
でもヨーへーは引っ越ししたくないから、一人暮らしをすると言ってるのだが、そんなお金の余裕がないから無理だと。
それなら探索者になってダンジョンで稼ぐと言っても、それも反対されていると。
それくらいならオバサンは店長と別れて残ると言い出してしまったので、八方塞がりなんだとか。
高校を卒業するまでの金があれば、もしくは店を立て直すくらいの金があれば、引っ越ししなくて良いと思ったから、宝くじで一発当てたいのか。
「そう言う事なら、俺に任せろ」




