モテるのも良し悪し
ヨーへーと昼から遊ぶ約束をしたので、着替えて駅前に集合した。
休日はダンジョン三昧だったし、ヨーへーとは中学では1度も同じクラスにならなくて、部活も別だったから一緒に遊ぶのは下手したら半年ぶりかも。
「ごめん待った?」
「いや、今来たところ」
お約束のやり取りをして歩き出す。
「いつもの所は他のヤツも来てるから、今日は別の所にしようぜ」
「わかった」
「朱鷺ってば、まだそのキャラやってんの?」
「何の事だ?」
「クールな朱鷺君」
「うるさいな。俺は元からこうだ」
「え~。お笑い芸人を目指していた朱鷺は何処に」
「そんな事実はない!」
「いやいや、職業に出てるだろ」
「ギクッ。何故それを!まさか貴様!?」
「うん。俺も出てた」
「把握」
「ギルドで受付のお姉さんに二度見された時の気持ちがわかる?」
「いいんじゃね?イケメンお笑い芸人」
「ラーメン、つけ麺…「言わせねえよ!」」
「やはり相方はお前しかいないな」
「やらねえから」
「またまた~好きなクセに」
「ふっ。あの頃は若かったんだよ」
「今も若いけどな」
やはりヨーへーと一緒だと駄目だな。
ついつい悪巫山戯をしてしまう。
「探活なら一緒にやってもいいよ」
「母さんがなぁ…いや、朱鷺となら許可が出るか?」
「オバサンの心配が、パーティーメンバーに女子を入れないだけで良いなら簡単な話だけど…難しいな」
「そうなんだよ。いくら男だけのパーティーにするって言っても、メンバーなんていくらでも入れ替え出来るからさ」
「ヨーへーは信用されてないんだな。やはりタラシの遺伝子がそうさせるのか」
「人聞きが悪いな!?」
「いや、でもさぁ、俺が知ってるだけで告白されたのが、幼稚園のマミちゃんにカスミちゃんにチハルちゃん、小学校では佐藤さんに渡辺さんと岡田さんだっけ?バレンタインはチョコが山盛りだったし、モテる男は辛いってか」
「それって俺のせいじゃないだろ!」
「いやいや、何をおっしゃいますやら。"ヨーへー君って凄い優しいしイケメンだしサッカーも上手いの″、″頭良いのに偉ぶらないで勉強を教えてくれるの″、″荷物は積極的に持ってくれるし他の男子に爪の垢を飲ませたい″…これがお前の周りの女子の意見だ。お前は無意識に女子に優しくして、モテようとしているんだよ!」
「な、なんだってー!!」
ガックリしているヨーへーだが、自業自得としか言えない。
そりゃあ、イケてる男子に優しくされて好きにならない女子の方が珍しいわ。
自分に自信があるなら、告白の1つや2つやっちゃうでしょ。
告白する自信がなくても、バレンタインと言うイベントにワンチャンかけちゃうでしょ。
今年なんか、卒業だからと後輩からも告白付きでチョコを貰っていたのは、違うクラスの俺ですら知ってるぞ。
そんでもって、折角くれた物を捨てるような鬼畜ではないので、家に持って帰るからオバサンの疑念が晴れないんだよ。
この子は女を泣かせる父親と同じではと心配しているんだよ。
俺なら誰が作ったのかも判らないチョコなんて怖くて食えないぞ。
そんなんだから、女子の方も諦め切れないんだよ。
それからな、話もした事のない女子に優しくしたり、頼まれもしないのに手伝ったりしても許されるのは、イケメンだけなんだよ!
俺がやれば変な目で見られるだけだぞ。
困ってそうな女子に声をかけて、″いえ結構です″と平坦な声で断られる気持ちは、お前らには解るまい。
俺だって幼稚園まではヨーへーと同じくらいモテてたはずなのに!
アイちゃんとかメイちゃんとかミナちゃんとか、俺と遊ぶのを取り合ってたろ。
なのに小学校に上がった辺りから、どんどんイケメンに盗られていったのさ。
男女の区別が曖昧だった頃は、遊んでて楽しいが基準だったので、見た目なんて重要じゃなかったのだグスン。
だから流行りのお笑い芸人なら、なんて間違った方向性でモテようとしたが、人気があるのとモテるのは違うと気付いたのさ。
こうして黒歴史は封印されたのだった。
「高校では女子に必要以上に優しくするなよ」
「でも母さんが、女の子には優しくしろって言ってるんだぞ」
「複座な女心だな。好きな男には、自分だけに優しくして欲しいものなんだってさ」
「なら優しくする人がいなくなるぞ」
「好きな子いないの?」
「朱鷺こそ、どうなんだ?」
「いないな」
「寂しいヤツだな」
「ブーメラン乙」
ヨーへーと一緒にガックリしながらレトロな喫茶店に入る。
ここは、知る人ぞ知る…って当たり前なんだけど、喫茶店なのにボリューミーな、成長期には嬉しい店だ。
「カツカレーランチで」
「俺はオムライスランチ」
ほぼ満席だったが入れ替わりで出た人がいたから、直ぐに座れて良かった。
強運もやれば出来るじゃないか。
ランチと言いながら日替りとかでなく、単品メニューなら何でも頼めてドリンクとサラダとデザートが付いて同じ値段だから、ランチタイムは混雑している。
某東海地方ではモーニングタイムに飲み物を頼むと、トーストとサラダやゆで卵が付いてくる事があるのと同じだな。
知らない人だと、頼んでませんと言って驚くサービスだ。
普通はモーニングセットは別メニューになってるのに、飲み物に付いてるのが当たり前過ぎて説明がないのだ。
その地方では朝は喫茶店で食べるのが当たり前らしくて、客を取り合ってサービスが過剰になった結果だと聞いたよ。
この喫茶店ではディナータイムも似たサービスをやってるので、単品メニューの意味があるのか謎だが、少食な人が頼むのだろう。