リアル億万長者
「やはりゴーレムで間違いないね。この本のイラストに似た物がある」
ほほ~。
これがあれば俺もゴーレムマスターか…
「これはギルドで預かるね」
「なんでだよ!」
「今回の事件の証拠になるし、危険性が高いからだよ」
「え?これって危険なの?」
「オレの目でも完全に見えないから、何が起こるかわからないって事だよ。そんな物をトキに使わせる訳にいかないよ」
「ちぇ…ゴーレムマスターになりたかったのに」
「理想の恋人なんてダメ絶対」
「コーチャン、何か言った?」
小声過ぎて聞こえなかった。
「なんでもないよ。それより、ギルドに戻って後始末をしないといけないし、あの子達も保護しなきゃいけないから、今日の探活はここまでだね」
「あ~やっぱね」
せっかくのD級デビューが中途半端に終わった。
でも、ある意味で凄い経験にもなったけどね。
レベルアップもしたし。
とは言え、こんなに簡単にレベルアップしてたら、本当の実力が上がらないのも理解している。
その証拠にスキルに変化はなかった。
だからこそ、実力が近い者とパーティーを組めって事なんだし。
コーチャン達とは、あくまでもスキルや職業の検証のための特別措置なんだから、いつまでも一緒に出来る訳じゃないのも理解している。
明後日が入学式だから明日は探活も休みなんだし、鍛練でもしてレベルアップした身体を慣らしておくかな。
ダンジョンを出た俺達は、受付に向かうコーチャンと別れて解散となった。
探索の成果はコーチャンが精算してくれたので、報酬も受け取り済みだ。
結局2時間程しか探索出来なかったが、E級より稼げる事は間違いない。
「そう言えば、リンちゃんはギルドに行かなくて良いの?」
何故か一緒に車に乗り込んでいるので聞いてみる。
「やだ、私はギルド職員じゃないのよ?」
「あれ?そうなの?」
ギルド職員じゃないのに、特別部隊に参加って出来るの?
「そうよ。今はアメリカで仕事をしてるの。これでも一応A級だから、巧乃さん達と同じく、ギルドの依頼として参加しているの」
なるほど、だからなかなか会えなかったんだ。
A級が1人増えたくらいでは驚けない感覚になってしまったな…
「何の仕事をやってるのか聞いても構わない?」
「もちろん良いわよ。実はダンジョン関連の会社を経営してて、世界中を飛び回っているから、日本に帰って来たのも1年ぶりくらいなのよ」
「じゃあ、リンちゃんは社長なの!?」
「うふふ。今はCEOって言うのよ」
「凛花ちゃんは普通の社長より偉いんだぞ」
CEOって社長じゃないの?
へえ~、いくつもある関連会社の責任者って感じで、各会社の社長に指示したりしてるんだ。
「リンちゃんは凄い人なんだね」
「朱鷺も聞いた事があるだろう?ダンジョンダイブファクトリーとかDDFとか」
「DDFって探索者専用のアイテムを取り扱ってる、大手通販サイトだよね。それがリンちゃんの会社なの?」
「そう言う事だ」
「何か世界長者番付でトップ3とか聞いた事があるような?」
「ちゃんと朱鷺もニュースを見ているんだな」
父さんがチャンネル変えるからね。
「じゃあ、リンちゃんてば凄いお金持ちって事?」
「あら、10年前までは巧乃さんもトップ3に入っていたのよ。個人情報に厳しくなったから日本では報道されないけど、海外でダンジョンを攻略した時は向こうでの収入になるから、良く名前が出てたわよ」
えええ!?
爺ちゃんて、そんなに稼いでいたの!?
いや、S級探索者なんだから当たり前か。
ランクAのダンジョンに入れる探索者は少数だから、海外から依頼が来たりしてたみたいだし。
そんな超難関ダンジョンのレアドロップだと、10億円以上なんて当たり前とか言ってたっけ。
父さんの稼ぎも入れたら、どれだけになるんだろう。
普段は贅沢なんてしてないから実感がなかったけど、うちって億万長者だったんだね。
「そんなに稼いでいたなら、お小遣いアップしてよ」
「ワシらの稼ぎなんぞ大して残っとらんわ」
「親父は使い方が豪快だからな。スタンピードで崩壊した学校や病院に寄付したり、ダンジョンの防壁を建てたりしてたら、いくら金があっても足りないぞ」
そう言えば、そんな事も言ってたな。
それで、周りと大して変わらない生活になってたのか。
父さんがダンジョンで取って来る肉やスイーツが贅沢と言えるが、探索のついでだから実質タダのようなものだし。
「私も協力させて貰ってるけど、日本より世界の方が酷い地域が多くて、まだまだ復興が追い付かないのよねぇ」
そうか、復興支援で数十億集まったとかニュースで聞くと復興なんて簡単に出来そうだけど、それでも足りないんだ。
「そうじゃな。ただ金をやっただけでは何に使われるかわからんから、チェック機関やらを立ち上げた凛花ちゃんのお陰で、日本は立ち直りが早かったからの」
「私だけじゃなくて、皆が協力してくれたからよ」
「ビトーが逆らうヤツに睨みを効かせたりな」
「バカとハサミは使いようよね」
「ブフォ。凛花ちゃん酷いな」
「アヤツは脳筋だからの。凛花ちゃんがいなけりゃ、やり過ぎるとこじゃったぞ」
「ああ。手加減が苦手だったからな」
「光成が生まれてから多少はマシになったがな」
「ええ。光成を潰しちゃうかもって、初めての抱っこなんて固まったまま動かなかったのよね」
「そうだったな。無意識だと柔らかい物でも壊さず持てるのに、緊張すると壊すからこっちもハラハラしたな」
「生卵を潰さず割れるようになった時は、感動すら覚えたわ」
「目標を定めたら何がなんでもやり遂げるような、無駄に行動力があったからのう」
「親父を倒すと言って何度も勝負をしてたしな」
「本当にしつこかったわい」
「巧乃さんのお陰で、あの人も獣から人になれたから、私は感謝していますわ」
「ブフォ。凛花ちゃんは相変わらず辛辣だな」
楽しそうだね。
知ってる人だけで弾む会話って、やたら疎外感を煽るよね。
しかもビトーネタは俺の地雷だって事を忘れていませんか?
さっきから頭がズキズキするので止めて下さい。