八女家最強のモノマネ
部隊名を決めるだけで昼になってしまったので、リンちゃんオススメの和食のお店で天麩羅御膳を頂いた。
「衣がサクサクしてるのに、中はしっとりプリプリの海老が旨かったし、茶碗蒸しが今まで食べた中で一番好きな味かも」
「凛花さんの和食のオススメは間違いないからね」
「うむ。金目鯛の煮付けも旨かったぞ」
「桜にも負けてないな」
母さんに胃袋を捕まれてる父さんまで認めるとは、ここの料理人は職業も料理人に違いない。
今度は母さんと来たいね。
味を覚えて貰えば再現してくれるから。
本当に料理スキルはハンパないよ。
あ、因みにサブマスと舞菜香さんは、ノリノリが家で待ってると言う事で来てないよ。
それからガチャミも二次元にしている。
妖精の件は最高機密なので、今のところ知る人間を制限する方針なんだって。
契約魔法があるとは言え、出来るだけ知る人間が少ないに限るって言われている。
「さて、それじゃあ腹ごなしも兼ねて、特殊部隊の初出動とトキのD級ダンジョンデビューに行きますか」
「ふふ。トキ君のデビューに立ち会えるなんて、いいタイミングだったわ」
「え?凛花さんは来なくて良いよ。オレと巧乃さんと蓮さんがいれば充分だし」
ピキっと空気が鳴ったような錯覚を起こす。
「やだわ~。光成ったら冗談が上手くなっちゃって」
リンちゃんの顔は笑っているけど、背後に黒いオーラが見えるのは気のせいだよね?
「やだな~。凛花さんたら、今日はトキに思い出して貰うためだけの予定だって忘れちゃった?年を取ると物忘れが酷くなるのかな?」
ゴオォと空気が凍る錯覚…じゃなくて本当に寒い!?
今はもう4月だよ!?
冬に逆戻りしたような冷気にブルブル震える。
「こらこら、光成。女性の年齢の事を話題にしちゃいかんじゃろ。本当にいつまで経っても女心を理解しないヤツだのう」
「そうだぞ。年齢はタブーだと心に刻んでおけ」
爺ちゃんのセリフに、父さんがしみじみと同意する。
うん、まぁ、俺も激しく同意するが、とりあえず先にこの冷気をどうにかしてくれないかな?
そりゃあ皆は状態異常無効とかで平気なのかもだけど、俺の服とか周りには霜が降りてきてるんだけど…
女性を怒らせた時の恐ろしさ談義を始めた二人は当てにならない。
これは自力でどうにかするしかなさそうだ。
「リンちゃんは若くて綺麗だから、年齢なんて気にしなくて良いよ」
「やだ~。トキ君たら口が巧いんだから~。でも、お姉さんに惚れちゃダメだぞ?」
冷気が引っ込んで、めっちゃハイテンションになったリンちゃんに安堵するが、自分でお姉さんて言っちゃうのは…いや、コーチャンのお姉さんに見えるって俺が言ったんだった。
「リンちゃんは永遠の憧れって感じだから、このままの関係でいてね?」
コーチャンと顔が似てるだけあって、美女なのは間違いないが、惚れる事はないと思う。
さっきの冷気を出してる時の雰囲気が怖かったので。
怒らせた母さんに対する父さんのご機嫌取りテクニックを真似して、難を逃れるのに成功したようだ。
「お姉さんとか、いい年して止めろよ。トキが惚れるとかないわ!トキと付き合えるのはオレが認めたヤツだけだから!」
折角ご機嫌になったのにコーチャンったら止めて~!
惚れるとかリンちゃんのは冗談だよ!
また年齢の事を言っちゃったら、冷気で俺が死ぬわ!
「もう、コーチャンは黙ってて!リンちゃんが若くて綺麗なのが照れ臭いのは解るけど、お母さんに酷い事を言っちゃダメでしょ!それから、俺が誰と付き合おうがコーチャンには関係ないし、変な事ばかり言うなら嫌いになるからね!」
俺も母さんが年齢より若く見えるから、授業参観でクラスメイトにからかわれて、「母さんは結構ババアだよ」って言って死ぬほど後悔した思い出がある。
あの日の夕飯の味付けが激マズになってて、死ぬかと思ったからなぁ。
見た目も匂いもいつもと同じなのに俺の分だけ激マズにされた時に、二度と母さんを怒らせないと思った。
未だにあの時のメニューが出ると身構えてしまうが、なぜ苦手になったか父さん達に説明出来ないので我慢して食べている。
そう、母さんラブな父さんにババアなんて言ったとバレたら、物理的に死ぬかもしれないので。
「フフン。良かったわね光成。トキ君のお陰で命拾いしたわよ」
ショックを受けたように固まっているコーチャンに見せつけるように、俺の肩に抱きつきながらリンちゃんが挑発する。
「もう、リンちゃんもコーチャンを揶揄ってないで、早くダンジョンに行こうよ」
「おお、そうじゃな。時間は有限じゃ」
「そうだったな。凛花さんも忙しい所を無理して来てくれたんだ。今日くらいしかゆっくり一緒に居られないんだから、光成も反抗期の子供みたいな事をするなよ」
「だ、誰が反抗期の子供だ!トキはオレの事を嫌いになったりしないよね?ね?もう変な事は言わないから嫌いにならないで!」
再起動したコーチャンが必死に叫んでいるのがウザかったので、いつもの早良さんモードのコーチャンはカッコいいのにとボソッと言ったら漸く黙った。
「凛花ちゃんも光成と久しぶりに会ったからって、揶揄うばかりじゃダメじゃぞ」
「ふふふ。会うのは久しぶりだから、ついね。だって、この子ったら仕事じゃないと連絡して来ないんだもの」
「私も色々と忙しいので、申し訳ございません。凛花さんも相手の同意なく必要以上に触るのは犯罪ですよ」
早良さんモードのコーチャンがキラキラ笑顔で、リンちゃんの手を俺の肩から叩き落とす。
「やだ、光成ったらトキ君が記憶喪失になる前もベタ甘だったけど、なんだか変態度が進んでない?」
「私は変態ではありません。朱鷺君の事は大切な弟だと思っているだけですよ」
ここで止めないと永遠にダンジョンに行けそうにない。
少し考えて必殺技を繰り出す事にする。
「リンちゃんもコーチャンも、いい加減にしなさい」
怒りモードの母さんを真似してみたら、何故か父さんと爺ちゃんまで黙ってしまったが、静かに店を出る事が出来たので結果オーライってヤツだ。