誰にとっての運が良いのか
宝箱の見た目は古びた木で、いかにも海賊とかが財宝を入れているような雰囲気だ。
大きさは俺の肩幅くらいだから、宝箱としては小さい方だろう。
蓋に手をかけると…お知らせが来た。
初めての宝箱だって。
隠しボーナスとは別なんだな。
Mガチャチケット[S]1枚だった。
気を取り直して蓋を開ける。
「お約束かよ!?」
「あ~このパターンなんだ」
宝箱の中には、更に小さな宝箱が入っていた。
「取り出しても大丈夫だね」
コーチャンチェックで罠がないとの事なので、宝箱を取り出す。
蓋を開けると、更に小さな宝箱が…
予想通りだったよ。
またまたコーチャンチェックをしてから取り出す。
手の平に乗るくらいの宝箱は、装飾がされていて小さいけれど宝石っぽい物も填まっている。
鍵がかかっているのか蓋が開かない。
よく見たら1つ前の宝箱の底に鍵が落ちていた。
「解錠を使ってみて」
鍵で開けようとしたらスキルで開けるように言われた。
スキルを意識すると、何となく開けられる気がする。
アッサリと開いたよ。
道具とかなくても良いのがスキルの便利なところだ。
金庫を開ける番組だと、鍵穴に入れた道具をガチャガチャしてるのにね。
今度こそ中身は宝箱以外でありますように…
蓋を開けると、中には小さな金属が入っていた。
ワインレッドのビロードの様な布の上に、銀色で2センチ程の大きさの物が2つ置かれている。
「イヤーカフだね。呪いの類いもないし、触っても大丈夫だよ」
オサレと無縁の俺にはわからなかったが、これがイヤーカフなのか。
取り出してみると、丸みを帯びた円筒形に隙間があるから、ここで耳を挟むのか。
「これは対になってて、着けた2人で念話が出来るアイテムだね」
携帯電話が使えないダンジョンなら便利だね。
ガチャミによると、名前は囁きのイヤーカフ、ランクD、魔力+4・精神力+4、着けた2人にだけ念話が出来るが、ダンジョンでは同じ階層にいないと届かない。
「ギルドで買い取るなら20万円かな」
え?それなら売ろうかな。
「じゃあ、買取するね」
端末を出して手続きをする。
やけに急ぐね。
でも毎度あり~。
「無駄遣いは駄目だぞ」
わかってるよ。
「そろそろワシの誕生日じゃったな」
あからさまなオネダリだな?
ちゃんと毎年プレゼントしてるでしょ?
肩たたき券とか。
叩いてもビクともしない様に思うんだけど、本人が意識して力を抜けば俺の力でも肩たたきの効果があるんだよ。
てか肩こりとかしないと思うけど、近所の人に孫からのプレゼントを自慢されて、同じのが良いって言う爺ちゃんの希望であげてたんだけど。
「さっ、それじゃあコレ着けて」
さっきのイヤーカフを片方だけ渡される。
コーチャンを見たら、もう片方は装着済みだし。
横領は駄目だよ?
「違うよ!オレがギルドから購入したから問題ないよ!」
「それ、職権乱用じゃないの?」
「ちゃんとギルドのルールは守ってるから大丈夫」
職員の福利厚生の一環で、ギルドが買取したアイテムを月に2つまで一般に売る前に購入出来るんだって。
ギルド職員は人気職ではあるが、収入の面では探索者の方が儲かるので、探索活動も出来る優秀な人材を得るために、色んな福利厚生を用意しているそうだ。
月に2つは少ない気もするが、年間24個の市場に出ない珍しい物も手に入ると考えたら良いシステムだ。
転売は禁止しているし、高額な物や一部の希少アイテムは除外されているそうだけど。
買取金額20万円は高額じゃないのか…
それで自分が購入したくて急いで買取したのかよ。
「でもイヤーカフとか似合わないから」
「そんな事はないよ!トキはカッコいいんだから、もっと自分を知るべきだよ」
イケメンに言われても…
女の子にモテた試しがないし。
と言う事でコーチャンの説得に負けて、人生初のイヤーカフです。
指輪と同じで着けてても気にならないし、耳が千切れるくらいの衝撃でもない限り外れないそうだよ。
あ、力の指輪は外してあるよ。
まぁ攻撃力+3なら誤差の範囲だけど、今でもオーバーキルになってるからね。
人からのプレゼントは例え使わなくなっても処分出来ない性分だから、アイテムボックスに保管してある。
『トキ聞こえる?』
「わっ!」
驚いたけど、コーチャンの念話だと気付く。
念話なのにイケボは健在だよ。
名前の通り囁くような念話って何か嫌だな。
『聞こえるよ』
俺の念話も囁いてる様に聞こえるんだろうな。
『2人だけで内緒話が出来るなんて、素晴らしいアイテムだよ。流石はトキの強運』
それ俺よりもコーチャンが喜んでるから。
『トキといつでも心が通じ合うなんて、もう最高~~』
『コーチャン気持ち悪い』
『!?』
あ、心の中で思っただけで通じてしまった。
失敗失敗。