小指の呪い
俺のテンションが戻ったところで、今後の対策の方が先だとオヤツを作るのは後回しになった。
シエルには魔石を与えてオーブに戻しておいた。
まだ泣いてるガチャミは放っておく。
「とりあえずトキの記憶を刺激しない為に、過去の話はなるべくしない事。後はトキが忘れてる人を順次会わせて行く事にするよ」
「それと朱鷺君もなるべく思い出そうとしないで、何か気になっても考えないようにする事かな」
「まぁ、そんなとこだな。そうだ、そろそろビトー特集の時期だろ?何かヤバい気がする」
え?毎年見てるけど特に何もなかったよね?
「蓮さんの予感ならヤバいね。さっきもクソオヤジの事を話していた時だと言うし、刺激を受ける可能性が高いな」
なるほど。てかクソオヤジって…
ん?いかん、何か出て来そうになった。
頭を振って気を散らす。
確かにビトーの事はヤバいかも。
「しょうがない。テレビ局に圧り…いや母さんから言ってもらう方が良いな」
圧力って言おうとした?
「早良君やり過ぎないでよ」
「ハイハイ。テレビ局は何とかなると思う。ならなかったらギルドからお願いするよ」
"お願い"の圧力が凄い。
「その辺は光成に任せる。後はスキル検証の打ち合わせか?」
「そうだね。中学生の内は、予定通りスキル検証の名目でのダンジョン探索と、後は勝負でレベルアップを狙うかな。あまり探索に関係ない勝負だと、スキルの熟練度が上がらないかもしれないから、トキのスキルに合わせた方法も考えよう」
「そうだな。朱鷺…負けても泣くなよ?」
「泣かないよ!」
「お兄ちゃんの胸でなら泣いてもいいよ?」
そのネタは忘れて欲しい。
こうして黒歴史は出来上がるんだな。
「あ、まだ従魔の登録が出来てないんだった」
そう言えばそうだった。
「おや?さっきシエルが出てたのに、登録もしないで何をしてたのかな?」
コーチャンのオーラが黒いぞ。
そしてサブマスの顔は青いぞ。
「だって、まさかドラゴンとは思わなくて、秘匿情報の設定とか考えてなかったんだよ!」
「いい歳をして、だってとか言わないで下さい」
おおう、早良さんモードの笑顔の方が黒い。
「申し訳ありません」
サブマスの顔色が青を通り越して白い。
で、もう一度シエルを出して登録をした。
カードに従魔の項目が増えたよ。
従魔用の首輪も用意してくれてたので着けている。
コーラルピンクで可愛いシエルにピッタリだよ。
でも昨日の収入が飛んで行った。
爺ちゃんのS級割引(半額)で売って貰ったのに7万もしたよ。しくしく。
大型従魔用のサイズ調整付きで、サイズの倍率がえげつないんだとか。
成長に合わせて買い換えるより、結果的に安いと言われたよ。
しかし電話1本で割引して貰えるのもS級だからこそだね。
S級専用回線バンザイ。
すぐにオーブに戻すのも可哀想なので膝に乗せておく。
モフモフふかふか。
「そう言えばコーチャン、今日この支部に来るのは駄目じゃなかったの?」
「ああ、今日は別の支部に行ってたけど、人が集まりだしたから切り上げて来たんだ」
「早良君が買取カウンターにいると、売上が上がるから支部長は喜んでるよ」
推しに貢ぐファンがいるみたいな?
「本当はトキが来るまでに到着するつもりだったんだけど、少しトラブルがあって遅れたんだよね。トキが倒れたって聞いた時は、トラブルを起こしたヤツを呪ってやろうかと思ったよ」
止めて!コーチャンなら呪いのスキルを持ってても驚かないから。
「ふふ。トキが無事だったから、足の小指をぶつけるくらいにしとくよ」
逃げてー!トラブル起こした人ー!
小指は本当に痛いよ。
「その人のせいで倒れたんじゃないんだし、呪いとかやめたげて」
「ああ、それもそうだね。この場合はクソオヤジのせいになるのかな?それともここに居た2人のせいかな?」
アカン…眼からハイライトが消えてる。
「こら、光成。誰も予測出来ない事だろ。俺の勘でも判らなかったんだから、誰のせいでもない。全く、自分の思い込みで突っ走るとこは父親似だよな」
「むう。しょうがない。それとオレはクソオヤジに似てないから」
ハイライトが戻ったイケメンがパチンと指を鳴らす。
「はぁ…早良君、後始末するの僕なんだから、本当にするのは止めてくれよ」
「オレだって反省してる人にはやらないよ。人に迷惑かけておいて謝らなかったんだから、最後まで腹立たしかったよ」
まさか、冗談ではなく本当に呪ったの?
「冗談だよ?」
ニヤリと悪い笑顔がイケメン過ぎる。
あと心を読むな。