消えかけたけど問題なし
ハッと気が付いた。
「うわっ!」
目を開けたらイケメンが目の前に。
「な、あれ?コーチャン?」
「良かった。どこか痛いとか、気分が悪いとかはない?」
なんと、イケメンの膝枕ですよ奥さん。
いや、状況がわからなくてテンパってしまったが、何で膝枕なの?
「あれ?寝てた?」
どうやら床に寝かされているみたいだけど、高級絨毯の寝心地は意外と悪くない。
「覚えてないのか?急に意識を失ったんだぞ。それで大牟田が光成を呼んだんだ」
「そうだよ。心配したんだよ」
あ、父さんもサブマスもいたんだ。
俺の位置からは見えなかったよ。
意識を失ったって?
そう言えば、何か話してた時に急に真っ暗になったような。
何だっけ?
「あんまり覚えてないかも」
とりあえず膝枕から脱出するために、上体を起こしたいのだが。
「ガチャミどけよ。ほらシエルも降りてくれ」
『朱鷺のバカ~心配したのに酷いよ~』
「ピャア~ピャア!」
「あ~心配かけたのは悪かったが、とりあえず起きたい」
シエルを抱えて上体を起こす。
コロンと転がる妖精は知らん。
はいはい、どうせ俺は鬼畜だよ。
「トキ、本当に大丈夫?一応、蓮さんが大丈夫って言ってたから救急車は呼ばなかったけど…」
「うん。別に何ともないよ」
立ち上がっても、特に眩暈や痛みなんかもない。
コーチャンも目を光らせてるから、何か見てるんだろう。
「う~ん。やっぱり問題なしなんだよな」
「どういう事?」
コーチャンのスキルを使うと状態異常なんかもわかるらしい。
それで俺を視た結果が"問題なし"だって。
「じゃあ問題ないんだよね?」
「だから問題があるんだよ」
「え?問題なしじゃないの?」
「だから、デバフなら"毒"とか"麻痺"とかが出て、体調不良なら"発熱"とか"疲労"とかになる。それで、何も問題がないなら"普通"と出るんだよ。状態として"問題なし"っておかしいでしょ?」
それなら確かにおかしいね。
実は俺が寝てる時も視たんだけど、"問題なし"だったそうだ。
普通は意識のない人を視ると、"睡眠"や"気絶"または"昏睡"と表示されるそうだ。
しかし、俺の場合は寝てても起きてても"問題なし"って、おかしいを通り越して怪しい。
コーチャンのスキルは【隠蔽】や【改竄】ではほぼ誤魔化す事が出来ないそうで、それが出来るのだとすればギルドが知らないスキルかもしれないと。
ただ、父さんの勘に判断してもらったら、このまま見守る方が良いとなったから起きるまで待ったんだって。
何それ、怖いんだけど…
父さんの勘は良いけど、結局は何なのか解らないって事だろ?
寝てたのは20分くらいだったらしいけどさ。
『朱鷺が消えなくて良かった~』
俺の背中に引っ付いて、えぐえぐ泣いてるのを無視してたガチャミが、無視出来ない事を言ってきた。
『俺が消えなくて良かったって、どういう事だよ?』
『なんかね~朱鷺の存在が揺らいでたの~』
存在が揺らいでた?
『朱鷺の存在が~ユラユラ~って消えかけてたの~』
まさかアーカイブ案件で消されかけたのか?
『違うよ~よくわかんないけど~朱鷺だけど朱鷺じゃなくなりそうな感じがしたの~』
なんだよそれ。
『これ以上は言えない~』
めっちゃ気になるんだけど!
「朱鷺、どうかした?何かガチャミから聞いたのか?」
「それが、よくわからないんだけど、俺の存在が揺らいでいたとか言うんだけど、これ以上は言えないみたいなんだよ」
「そうか…存在が揺らいでたけど、問題ないってことなのか?しかし、こんな事が今後もあるなら、ダンジョンに入るのは危険過ぎるな」
ちょっと待って!
それって探活が出来なくなるって事!?
『おい、ガチャミ。俺の存在が揺らぐとかって、何か防ぐ方法とかないのか?』
『んとね~?何か朱鷺の記憶を刺激したら~駄目みたい~』
『俺の記憶?』
『えとね~無理に思い出そうとしないで~時が来たら朱鷺は朱鷺になるからって~』
駄洒落かよ。
俺が俺になるって、哲学的な話しか?
我思う故に我ありみたいな?
『う~ん?頑張ってレベルアップしたら~何か良い感じになるって~』
良い感じって、どんな感じだよ!
まぁ、要するに記憶を刺激せず、レベルアップするのはOKって事かな。