父の眼力に散る夢
特に何事もなく学校にたどり着いて、特筆する事もなく放課後になった。
まぁ、俺が徒歩で通学してるのを目撃した何人かに、自転車が壊れたのとか聞かれたが、適当に答えておいた。
修行してたと言ったら信じたヤツがいたのはビックリだが。
木刀持って朝から4キロ走るとか、修行だろとつっこまれたけど…解せぬ。
父さんに電話したら、既に近くのコンビニの駐車場に来てたので急いで合流する。
「ごめん、待たせた?」
「いや、ついさっき来たところだ」
デートのテンプレみたいな会話をする。
「あ、そうだ。ガチャミの食べる物がないから買って来る」
荷物を後部座席に載せながら言うと、お小遣いをくれた。
ストレージに入れられないから、嵩張らなくて日持ちする物と、飴とかチョコとか数が入ってる物を買う。
「お待たせ」
助手席に乗り込みシートベルトを着けると、直ぐに発進する。
「木刀をわざわざ学校に持って行ったのか?俺が持って来てやったのに」
「ステータスが上がったから、昼休みに素振りで慣らしておこうと思って。爺ちゃんにも、ステータスに振り回されてるって言われたからさ」
「学校で素振り出来る場所があるのか?」
「部室の裏に誰も来ない場所があるからね」
「息子が木刀を振り回していると、学校から連絡がなくて良かったよ」
「窓を割ったり、盗んだバイクで走り出したりしないから」
「男なら、ちょっとくらいヤンチャをしても良いさ」
「父さんもヤンチャしたの?」
「そんなに大したことはしてないぞ?今なら器物破損や窃盗くらいなら、親父の権力で揉み消せば大丈夫だからな」
駄目に決まってるだろ!?
冗談だろうけど、ある意味では権力があるから洒落にならない。
…冗談だよね?
そんなじゃれ合いをしながらギルドに到着した。
ちょうど空いてる時間帯なのか、昨日より車が並んでいない一般駐車場を横目に専用駐車場へ行く。
いくら空いていても、父さんがいると目立つからね。
3階で降りると、受付で父さんがカードを見せて副支部長を呼び出してもらう。
早良さんが連日同じ支部で勤務するのは、色々と不都合らしくて今日はサブマスが対応する事になっている。
窓口がサワラーで溢れちゃうからかな?
現れたサブマスに昨日の会議室へ案内される。
重役会議もやるから防諜対策は万全だからだとか。
あ、ちなみに俺は例の認識阻害のネックレスをしてるので、誰も気にしない空気になってるよ。
たゆん…いや、歴木さんが美しい角度の礼で迎えてくれる。
「朱鷺は彼女がタイプか」
会議室に入った途端に何を言い出すの?!
「別にタイプとか違うし!」
「そうか?すごい見てたから、てっきりタイプだからだと思ったよ」
ニヤニヤするなよ!
「男なら誰でも見ちゃうだろ?」
「若いな。アレは偽物だぞ」
「な、なんだってー!?」
てか偽物か判るの?
「俺くらいになれば、見ればわかる。大きいと肩凝りするから、姿勢に現れるんだよ。桜がそうだからな」
「ふっ。結局ノロケか~。母さんに、父さんは偽チチが判るらしいと伝えておくよ」
「こら朱鷺!それは男同士の秘密ってヤツだろ?」
「じゃあさ、秘密にするから、千々石の魔道自転車をクリスマスプレゼントで買ってよ」
「何?それは高過ぎないか?」
「え~でも、姉ちゃんは高校の入学祝いで買って貰ったじゃん。少し早いけどクリスマスプレゼントなら良いでしょ?」
「しかし、それだと光のプレゼントと差が出るからなぁ」
「姉ちゃんはどうせ今年も、ジョリーズのカウントダウンライブのチケットでしょ?金額よりも確実に手に入る方を取るから、文句は出ないと思うよ」
「わかった。本当に朱鷺は悪知恵が働くな」
「周りのお手本が良いからね!」
「…直海のヤツめ」
「誰も直ちゃんなんて言ってないのに。今度会ったら言っておこうかな」
「こらっ!」
「他に何を買って貰おうかな~?」
「これ以上は買わないぞ。直海に言われた所で、どうとでもなる」
「ちぇ~直ちゃんでは効果が薄いか」
「本当に仲が良い親子だね」
あ、サブマスの事を忘れてた。
お茶を持って来てくれた歴木さんにも見られてしまったよ。
そそくさと席に座る。
俺のはコーラと覚えていたみたいで、聞かれていないのに用意してくれる出来る女なのに…偽物か…
たゆんと揺れる胸部装甲を哀しみと共にチラ見する。
いや、父さんの方が間違っている可能性も…父さんがこの手の事を間違う確率ってどれくらいだっけ?
勘が鋭いのも良し悪しだよね…
夢が無くなるよ。
歴木さんが出ていくのを待ってコーラを味わう。
「さて、早良君が来るまでに出来る事をやっておこうか」